シリーズ小説

□見つめる先に
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ただ、見つめていた。



何にも言わないで。



何にもしないで。



ただ、見つめていれば良かった。
















「あの二人は、うまくいくと思っていたよ」

「・・え?」



会議も三日目に入って、みんなに疲れの色が見えていた。

俺も、正直会議は退屈だし、面倒だから好きじゃない。




でも、君に会えるから。


ずっと、見ていたから知っていた。


知っていたから、気づいてほしくてずっと見ていた。






「アーサーと菊ちゃんだよ。」

「・・・あぁ」

「アーサーの落ち込みようは見るから分かるし、菊ちゃんだって、辛そうだ」

「そう、だね」




ただ、見つめているだけで幸せ。なんて物わかりのいい事は言えない。


だって、君は俺なんか見ていない。


君の心は俺を見てくれない。





「アルフレッドは、なんであの二人が付き合わなかったと思う」

「・・・さぁ」

「・・・お前が、アーサーを好きだからだろ」




ただ、俺の事を見てほしい。

俺が君の一番になりたい。

君が、君の事が――――




「だから、菊ちゃんは・・。あの子は、どうしようもなく優しいから・・」




遠くでフェリシアーノやルートヴィッヒと一緒に話をしている菊。
その顔には笑顔が浮かんでいるけど、遠目からでも、その目が赤く腫れている気がした。


そして、そこから少し視線を右に送ると
今日の会議の資料を見ながらも、菊の方へ視線を向けるアーサーの姿が。



「菊ちゃんは馬鹿みたいに優しいから、身を引いたんだろ」

「・・・そう、」

「お前だって、分かってるくせに知らないふりするな。」




いつになく強い言葉のフランシス。
その顔は俺を見る事無く、ただ前を向いていて。
だから、俺も前を向いて。




「うん、ごめん。」




ただ、見てほしいだけなんだ。

なのに、何で俺を見てくれないんだい。

君の事が、どうしようもなく好きなんだ。






「そんなのは、ズルイだろ。お前、ずっと見てただろ」

「・・・・。」

「それに、菊ちゃんが気付かない筈ないだろ」





病気みたいだ。

まるで、もう抜け出せない深い沼。

光は見えるのに、手は届かない。

水面にうつった月に手を伸ばすとその月はたちまち姿を消す。





「俺は、でもこの方法しか思いつかなかったんだ。それでも、俺はズルイかい?」

「・・・まぁ、良い方法とは言えないな」





でも、こうでもしないと彼は俺を見てくれない。

こうでもしないと、きっと、俺は・・。


「でも、それでも、俺は手に入れたいんだ。」

「お前、」

「だって、俺はどうしようもなく、菊が欲しいんだから。」














本気で、君の事が好きなんだよ。菊。











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