シリーズ小説

□嵐の前に
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誰が悪いなんて、そんなのは本当はすごくどうでもよくて。


どうすればあの子が幸せになれるかって言うのは、本当はすごく簡単な事なのかも。









「あ、っと。大丈夫?」


廊下を歩いていると走ってきた菊ちゃんとぶつかった。

ぶつかった衝撃で尻もちをつきそうになった菊ちゃんを慌てて支える。



「す、・・・みま、せん・・、だいじょう、ぶですので・・」


そう言って俺の腕から抜け出そうとする菊ちゃんは俯いていて顔など見えないけど。

でも、それでも分かってしまったのは――――






「菊ちゃん、ねぇ」

「ヴェー、菊、大丈夫?あ、フランシス兄ちゃん」

「よう、フェリシアーノ」




菊ちゃんを追ってきたのだろう、フェリシアーノが走ってきた。

すると菊ちゃんは、ぱっと顔をあげて恥ずかしそうに笑った。そう、笑った。





「菊、大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ。さっきは取り乱してしまってすみません。」

「良かったぁ。じゃあお昼食べに行こう」



本当に何もなかったみたいに笑って言う姿にどうしてだか胸が痛くなった。

フェリシアーノも笑って菊ちゃんの手を握る。




でもその時、フェリシアーノとつないでない方の手で

菊ちゃんがギュッと俺のスーツの裾を握った。




その手は、心なしか震えている気がした。






「あー、フェリシアーノ。菊ちゃんはね今日、お兄さんランチするって約束してたんだ。」

「ヴェッ!そうなの?菊?」

「ごめんなさい。フェリシアーノ君。本当に、今日はフランシスさんと。」



そっか、じゃあ仕方ないね。と言ってフェリシアーノは笑った。

菊ちゃんはもう一度謝って申し訳なさそうに眉を下げた。




「次は美味しいパスタ一緒に食べようね」

「えぇ、ぜひ。」




そうしてフェリシアーノは菊ちゃんにハグすると何事もなかったように去って行った。

俺は珍しく空気を読んだフェリシアーノ事に感心しつつ、菊ちゃんの肩に腕をまわした。



ビクッと、した菊ちゃんは俺を心配そうな目で見つめてくる。








「一緒にランチ、しよっか。俺の家で。」



バチコーンと音がしそうなウィンクをすると菊ちゃんはまた、小さく笑った。


その笑顔が、いつもなら可愛くて仕方ないと思うのに


どうしてか今だけは、心が痛くて悲しくて仕方なかった。










「大丈夫。おいしいご飯、作るね」



そう言ってからきゅっと手を握ると菊ちゃんは一瞬目を見開いて、そしてもう一度笑った。




いつもなら、こんな事しないのに。出来ないのに。菊ちゃんだって・・・。













それから俺は菊ちゃんの手を握って会場を後にした。



だから、気づかなかった。



あいつがいた事なんか。








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