短編

□ただ、ずっと忘れない
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「もう、お会いする事はできません。」







襖越しに上の考えを伝える。

今、貴方がどんな表情をしているのか。

今、貴方はどんな顔でこちらを見ているのか。

今、貴方はどんな想いでいるのか・・・。











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『スペイン』との外交を止めるのだ。

・・・何故ですか?

あちらの本当の目的は我らを支配下に置く事だと聞きました。

会議で決まった事です。

御国、もう決まった事なのだ。









そう、『支配下』に・・・。











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――――――





声は聞こえてこない。

でも気配は動いていないから、まだこの襖を隔てた向こう側にいるはず・・。

それに、オランダさんが入ってこないですし・・・。

どうしましょう・・。






「日本、」

「は、はいっ」

「あは、そんなに緊張でもええで?」

「スペインさん・・。」




いつもと変わらない声。

あの太陽みたいな笑顔は、もう見れないのですね。

この襖がもどかしい。

たった一枚の襖が、何重にもなる重い壁のようで・・。




「俺は、これからも日本の事忘れんよ。」

「・・・っ」



なんで、なんで貴方は。

どうして、私は、だって・・もう・・。




「日本、言ってやりぃ」

「オランダさん・・」

「こいつ、分かってないみたいやぞ。」




そうだ、言わないと行けない。

これは、避ける訳には。

そう、だって私は・・・・。







「うっとおしいんです。貴方と関わるのが。今までの事、感謝はしていますが・・。」

「日本?」

「これ以上貴方に関わる気はないですから。貴方の事は忘れる事にします。」

「・・・。」

「ですから、貴方も私の事・・・わす・・れてください・・っ」




苦しい苦しい苦しい苦しい。

息が詰まる、目が回る、酸素が足りない、怖い、目を開ける事も

何かを考える事も、もう全てが苦痛にしかなっていない。




「分かっただろ?そういう訳やからとっとと帰えれや。」

「・・・。」

「おい、」







かた、小さく音がした。

こちらに近づいた音。

あの人の足音。

襖が小さく震える。

あの人が手でもかけたのだろうか・・。








「日本、ごめんな?」



なんで謝るんですか?

謝るのは私の方なのに・・。

酷い事を言ったのは私なのに。



「日本はもう俺の事嫌いになってしもうたんかもしれんけど・・。」




そんな事、言わないでください。

ごめんなさい、

早く、もう・・

全てが嫌だ、全てを断ち切りたい・・・。

助けて、もう・・。



「俺はずっと日本の事、忘れんから。じゃあ行くわ。」














パタン、と戸のしまった音が小さく聞こえた気がする。

スーと音をたてて、今まで私とスペインさんの間に存在したそれが開く。

光が部屋の中を明るくする。

眩しい。

あの人も、眩しかった。

そう、土の匂いと太陽の匂いがして

まるで神様みたいな匂いで。







「よう頑張ったな。ほれ、大きく息吸え。」



オランダさんが力強い腕で私を起こしてくれる。

ゆっくり、いつもよりも優しい声色で私を引っ張り上げてくれる。



「あり、がとうございます・・。」


大きく息を吸う。

目をゆっくりと開ける。

思考を巡らせる。

ゆっくりと息を吐く。



「私は、ちゃんと言えていましたか?」

「あぁ。しっかり言えとった。」

「それは、良かった。良かったです・・。」

「日本・・」

「あれ?おかしいですね、どうしたんでしょう。私、なんで・・」



涙が止まらないんですか・・



「これからは俺がずっと傍でお前にいろんな事教えてやる。」

「オランダさん」


ぎゅっと抱きしめられた。

あたたかい。

あの人のあたたかさとは似ていない。

でもあたたかい。



「あいつの事は忘れろ。大丈夫や。日本・・。」

「オランダさん、オランダさん・・っ」





なんで、なんで、私たちは国なんでしょう。

なんで、なんで、私たちだったんでしょうか。

スペインさん。

私の事、忘れてほしい。

私の事、忘れないでほしい。

スペインさん。

スペインさん。




ごめんなさい、ごめんなさい。




私も、忘れれそうにありません。






END

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