短編

□温かい時間
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そっとしておいてほしかった。

本当は家族とずっと一緒にいたかった。

外の世界なんて知らないで、静かに暮らしていてほしかった。

ただ、幸せに、静かに、ゆっくりと時間を生きてほしかった。















「菊?どこに行ったあるか?」

「・・・耀さん」

「あいやー、転んだあるか?泥んこあるねー」

「・・・・・。」

「家に帰って風呂にはいるある!ん?どうしたあるか?菊?」


悲しくて、悔しくて、寂しくて、冷たくて。


「ぅ・・っく、ふ・・」

「どうしたあるか!?どこが痛いあるね!?」

「に、にぃに、ぅっ、く・・にぃ、ふぅっ・・」

「菊、よしよし。痛かったあるねー、怖かったあるね。大丈夫、我がそばに居るあるよ」




















「あー!兄貴ずるいんだぜ!菊だけおぶってずるいんだぜ!」

「勇洙、うるさいある。」

「ひどいんだぜー!あ!!菊が泥んこー!泥んこなんだぜっ!!」

「うるさいあるよー。風呂に入るあるけど勇洙も入るあるか?」

「入るんだぜ!菊と兄貴と一緒に入るんだぜ!」

「菊!一緒に行くんだぜ!」

「あ、勇洙さん、手・・」

「仲良しだから手つないでいくんだぜ!」

「あんまり慌てると転ぶあるよー」












嬉しくて、楽しくて、温かくて、心地いい。


ふわふわしていて、幸せな空間


いつまでも続けばいい。


ずっとずっと続けばいい。


にーにと勇洙さんが総ての世界


幸せな『セカイ』


ずっとずっとそれでいい。


それがいい。











「ん?菊、起きたあるか?」

「や、おさん・・?」

「どうしたあるか?」

「・・・いえ・・・なんでも・・。」

「ん?なんでも・・、何あるか?」


優しい笑顔は変わらない。


優しい声も変わらない。




でも変わった。





「ただ、古い夢を・・、夢をみたもので・・。」

「そうあるか」




古い、古い、夢。


あの頃は『世界』を知らなかった。


私の『セカイ』はにーにと勇洙さんだけでできていた。


でもそれだけで良かった。


それだけで幸せだった。


優しいにーにと賑やかで楽しい勇洙さん。


幸せだった。毎日が


温かかった。空間が






愚かだと言われるのだろうか。



それでも、かまわない。





確かに幸せだったのだから。



確かに、幸せだったのだから。






「菊、夢はどうだったあるか?」

「えぇ、とても幸せで温かい、それでいて、冷たく悲しい・・」

「菊・・・?」

「っふ・・く・・にぃ、にぃ・・っ」

「!!どうしたあるか?」




変わったのは私。



幸せな『セカイ』を変えたのも私自身。




「わたしは、私は、愚かで・・、変わる、事が怖くて、なのに・・」




抱きしめられたと理解するのに少し時間がかかった。


あぁ、いつぶりだろうか。


耀さんに抱きしめてもらったのは。


子供のころは寒い夜。何かが出来たとき。泣いたとき。寂しいとき。





「時代は、止まる事がないある。これからもずっと進み続けるね。」



そう、止まってはくれない。




「だけど、我はずっと菊の事が好きあるよ。ずっと、ずっとある。」

「家族愛だけじゃないね。それ以上に菊が好きあるよ。」

「や、おさん?」

「ずっとずっと、これからも変わらないね」




耀さんの顔が近づいてきて


私も反射的に、いや嬉しくて目を閉じた。
















スパーン―――



「きーくー!!遊びにきたんだぜ!!」




「?兄貴?寝っ転がってどうかしたんですか?」

「な、何でもないある。」

「さ、さぁ、そろそろお昼時ですし私なにか作りますね」

「キムチが食べたいんだぜー!」





昔とはたくさん変わったところがある。

だけど、きっと根本は変わってない。

大変な事も辛い事も経験した。

だけどやっぱり幸せだと、思えるんです。





「菊、続きは後で、あるな」

「耀さん」




悪戯っ子のように笑う耀さん。

恐れる事なんてない。

不安がる事なんてない。





「兄貴!きくー!お腹がすいたんだぜ!」

「うるさいある」

「はいはい、今行きますよ。」




私は今、とっても幸せなんですから。





END

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