短編

□見方を変えれば。
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「では、この件はそちらのおっしゃる通りに」

「・・日本・・」

「はい、何でしょうか?」

「何でも、ないんだぜ・・・」




久し振りに日本の家に訪れた。







日本とは『仲が良い』とはいえない。

昔は、ずっと昔は兄貴の家の庭で一緒に駆け回ったし

メシも兄貴がいない日は2人で食べた。

苦手なものがある時は2人で助け合うのが常だった・・。

一緒に時間を過ごしていたのに。



今では全然。

2人でメシを食べたのは随分昔の事。

プライベートな話をする事すらままならないのだから

日本の家に来るなんて何年、何十年ぶりかも知れない。




今日も家へ、と行っても仕事の話の為だが・・・。




「お話はこれでお終いでしょうか?」

「え?・・あ、まぁ・・」

「では外までお送りしますね」

「あ・・・、」




俺のとこは昔に比べたら薄らいできたが
それでもまだ、日本の事を快く思ってないものがいる。


国民の意思は俺たちにそのまま伝わって来る。

そして俺たちはそれを無下にする事はできない。



日本にも俺の事を快く思わないものがいる。

日本だってそれでも薄らいできた方だが、こればっかりはどうしようもない。

俺たちにも意思はあるが、国民の声を聞かないふりは簡単にできるものじゃないんだぜ。

だから俺たちは必要以上に話さないし、時間を過ごさないでいた。



だけど、俺は・・・。



















「日本、俺は・・・。」


玄関の戸を握ったまま俺はすぐ後ろにいるであろう日本に、声をかけた。

何も言わず、今日ここを出たら。

もうこの家へ来る事が出来ないような気がして・・。



「どうかしましたか?忘れ物ですか?」


部屋の方を振り返りながら訊ねる日本。

心配そうな声色に、何故かほっとした。



そんな日本に振り返る事もせず、続けた。



「俺は、俺は、日本のした事が・・・許せないんだぜ。」



小さく息をのむのが聞こえた。

そして少し間があいた後、分かっています、という声が聞こえた。

その声は、どこか弱々しい感じで今にも泣きだしそうに思えた。




「日本が、亜細亜を、家族を、兄貴の事を裏切った事が、やっぱり許せないんだぜ。」

「・・・・。」

「兄貴はもういいって、湾も香も・・。だけど、俺は・・、俺は・・。」



日本の事が好きだった。

こんなにも許せないってことは、今も好きなんだと思う。

だけど、良く分からない。



憎くて  悔しくて  悲しくて

でも

愛おしくて  戻りたくて  会いたくて



子どもの頃は早く大人になりたいって思ったけど

今は、子どもの頃に戻りたいんだぜ。

あの頃に、戻りたいんだぜ。




「・・・あなたが私の事を嫌うのは、仕方ない事です。私は、それくらいの事をしましたから・・。」


自嘲するような、全てを諦めた様な声。
悲しい、悲しいコトバ。



「確かに、俺は日本を完全には許せない・・。でも、菊の事は好きなんだぜ。」

「・・え・・?」

「日本の事はまだ許せない。でも菊の事は好きなんだぜ!だから俺は、菊を許すんだぜ!」




大事な家族で、大事な兄弟で、一番愛しい菊を。

俺は、菊を許したい。

だから、菊も許してほしい。

俺たちの事、俺の事、そして自分の事を。




「かん・・こく、さん・・・」

「菊、今の俺は・・、勇洙なんだぜ」

「ヨ、ンスさん・・・あり、がとうございます・・・、本当に・・」



ぽろ、っと菊の頬を涙がつたう。

ひとつ、ふたつ・・。

そしてそれは止め方を忘れたみたいに、溢れてきた。



「菊、なくな。菊は笑ってる顔の方が似合ってるんだぜ」


ふ、と抱き締めてそう言うと

腕の中で小さく頷いた。

菊は思っていたよりも小さくて俺の腕の中におさまってしまった。



「みんな、菊の事が好きなんだぜ。兄貴も湾も香も。菊の事が大好きなんだぜ!」

「・・私も・・・、家族と認めてもらえるでしょうか・・・」



少し目の赤い菊をみて

心臓がキューっとなった。

もっと早く言えば良かったと、少し後悔した。



「当たり前なんだぜ!これからは、ずっと一緒にいるんだぜ!」



頬を少し赤くした菊は、着物の袖で涙をふくと

ふわっと、笑ってはい、と答えた。

それが俺は嬉しくて嬉しくて。

ギュっと抱き締める力を強くした。





END

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