短編

□そしてゆっくりと、堕ちていく
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あにさまの存在は誰も知らない


あにさまはの存在は私だけが知っている。


他の誰も、誰も知らない。





あにさま、あにさま
大好きなあにさま。
あにさまをお慕いしております。
あにさまだけが、私を理解してくれる。
あにさまだけが、ありのままの私を見てくれる。
あにさまが好きです。大好きです。
あにさま、あにさま・・・。



なのに、あにさまは――――























暗い、頭がぐらぐらする。

腰が痛い。喉も痛い、頭も、腕も、目を開けている事さえ苦痛でならない。



「本田、本田っ・・。どうだ?」

「あぁっ・・いやぁっんああ・・・・もう、ゆるし、てくらさぁっ!」

「そんな事言って、ここはもっとして欲しそうだぞ?」


くちゅくちゅという何とも耳を塞ぎたくなる音が部屋に無上にも響く。

何が楽しいのかにやにやと、笑いながら胸と下を器用に触るアーサーさん。



「ひぁっ!!そ、そこは・・いあぁ、らめ、です・・ふっあぁ」

「そこってどこだよ?ここか?」

「あぁぁ!!あー・・さ、さんぁっ、もう、挿れてくらさぁい!」



気持ちいい?

あぁ、おかしい。

こんな事。






「本田、良かったよ。」

「私も、気持ち良かったです」

「そうか!それは良かった。じゃあまた。」

「えぇ、では。」






少し恥ずかしげに頬を染めて首を傾げればアーサーさんは面白いくらいに
想像どおりに喜んでくれる。そして軽いキスをして去っていく。


あぁ、めんどくさい。


今から後処理をしなくてはいけない。


ぐらぐらする。腰が痛い。喉も痛い。頭も腕も足も、全部全部、痛い。







アーサーさんのセックスは、流石エロ大使と言われるだけあって的確に、
そして器用に気持ちいいところを攻めてくる。その上かなり変態的。
手錠、目隠し、縄に媚薬。SM系もありましたっけ?あとコスプレとか・・
私ノーマルなんですよね。そんな事されても興奮とかしないんですよ。
あとフランシスさんのセックスはしつこいですね。長いです。前戯からして長いんですよ。
さすがに身体にこたえますね。アルフレッドさんは勢い任せって感じで
ルートさんは本格SMです。痛いのとか嫌いなんですよ。
フェリシアーノ君は何気に鬼畜ですね。

結局皆さん身体目当てなんですよね。
気持ちよくなんかないです。
心から気持ちいいなんて思った事がない。
それなのに反応する己の身体が恨めしい。


あぁ、早くかき出さなくては。


汚れてしまう、身体が。心が。














「菊、この後空いてるかい?」


ようやく会議が終わりホテルへ戻ろうとしたところ、後ろから腕をつかまれた。
振り返るとそこには有無を言わせない表情で
でも口調はまるで食事にでも誘うように私に話しかけた。


疲れているのだ。
一刻も早く部屋に入り眠りたい。

だが断る事は出来ない。




「もちろんですよ。」

「じゃあ、後で行くね。」


私は綺麗に笑えてますか?

いつもどおりに、普通に笑えていますか?








自分の部屋に入って熱めのシャワーを頭から浴びた。
また汚れる。
こうしてシャワーを浴びているだけでも汚れている気がする。
どんどん沈んで行っている気がする。
もう二度と戻ってこれないくらい。
もう二度と這い上がれないくらいに。



PiPiPiPi―――



電子音が部屋に響く。
それが自分の携帯から鳴っているという事に気がつくまでに少し時間がかかった。


『はい、もしもし。』

『あ!菊ちゃん?寝てた?』

『いえ、シャワーを浴びていたものですから出るのが遅れてしまったんです。』

『そっか、今から誰か来るの?』

『えぇ、アルフレッドさんが。』

『あ〜、今日会いたいと思ったんだけどそれじゃあ無理かなぁ』



フランシスさんの声は残念そうな声色なのに
諦めたという気配はみじんも感じれなかった。

フランシスさんの中ではもう決定事項なのだろう。


『その後でよろしければ、空いてますけど』

『でも菊ちゃんが辛いでしょう?無理しなくていいよ』

『私が、会いたいんです。御迷惑でなければ・・』

『迷惑だなんてとんでもない。じゃあ終わったら俺の部屋に来てね』


断らせる気なんてなかったくせに。

私が会いたいと言うまでなんだかんだで電話を長引かせるのだ。
もうそんな事にも慣れた。慣れたくなんてない事だけど。




「菊!今日もとってもキュートだったんだぞ!」

「それは、ありがとうございます」

「ん?どこかへ行くのかい?」

「えぇ、フランシスさんのところへ。」


そう答えるとアルフレッドさんは顔を歪めた。
なぜ貴方がそんな表情をするのですか?
おかしいですね。


「菊は本当に面白いね。」

「恐れ入ります。」


何が面白いのだ。

誰のせいで

誰のせいでこんな事になったと思ってるんですか?

一体誰のせいで・・・っ!!!





「あれ?でも確かフランシスは・・・。」













扉の向こうにいたのは会議の時とは違うラフな格好のフランシスさん。
だが寝巻きという訳でも部屋着というのでもない、シンプルだがお洒落なその服装。


「菊ちゃん、いらっしゃい。」

「こんばんは、フランシスさん。どこかに出掛けていたんですか?」

「え?いや、ずっと部屋にいたよ。菊ちゃんを待たせるのは忍びないからね。」


私の右手をとりながら、器用に片目をつむりウィンクをする。
そのままベッドに連れて行かれる。

あ、と何かを思い出したかのように呟くフランシスさんを見つめる。



「菊ちゃん夜はもう食べた?」

「いえ、まだですが・・。」

「お腹すいてるんじゃない?良いワインがあるからおつまみ程度で良かったら作るけど?」


それでは・・、そう答えるとフランシスさんは微笑んで
部屋に備え付けられている小さめのキッチンの方へ消えていった。


別にお腹が減っていたわけではない。
ワインが飲みたかったわけではない。
だがこういう申し出は受けた方がいいのだ。
そうしたら相手の機嫌が良くなる。



あぁ、早く帰りたい。

眠たい、早く、早く・・・。




「っ・・・菊ちゃんうまくなったね」


ピチャピチャ、という卑猥でしかない音が響く。
他人のモノを口に含む事に慣れてしまった。
声をかけられたら上目遣いで恥ずかしそうに微笑んだらいい。
多少音が出るように、愛おしそうに。
慣れてしまった。慣れたくなってなかった。
それだけ自分は汚れてしまった。
もう、汚れきってしまっているのだ。



「菊ちゃん、動くよ」

「は、はぃ・・ぁああ、は、激しい、ですっ・・・んあぁ」

「可愛いね、菊ちゃん。可愛い」

「ひぁっ!?ふら、しすぁあ!み、みみ・・ダメ・・っ・・!」



吐き気がする。

頭が揺れる、視界が定まらない、涙があふれる。

助けて、助けてください・・っ。











「今日は無理言ってごめんね、菊ちゃん」

「そんな、私もフランシスさんに会いたかったので」


少し頬を赤らめて微笑むとメルシーと言いフランシスさんも笑ってくれる。




時刻はもう11時を過ぎていた。




「そう言えば・・」

「ん?」

「フランシスさん、今日はマシューさんとお食事に行かれると聞きましたけど・・?」

「え?何で知ってるの?」

「いえ、少し小耳にはさんだのです。」


アルフレッドめ・・、とフランシスさんはすぐにその情報の発信源が分かったようだ。
フランシスさんとマシューさんは恋仲なかでしょうか?
そう言う噂は聞いた事がなかったですけど・・。



「別にマシューとは恋人とかじゃないからね」

「え?」


困ったような表情。

何でそんな表情をするのでしょうか。



「なんていうか、親子?いや、んー・・俺はマシューにとって伯父さん的存在かな」

「伯父さんですか。」

「そうそう。だから別に、恋人とかじゃないんだ。」








別にフランシスさんとマシューさんが恋人でも、そうでなくてもどっちでもいい。

どうでも良い。私には関係ないのだから。
頭から熱いシャワーを浴びる。
後ろに指を入れ中に入っているものをかき出す。
ドロっとしたものが流れていく。

目が痛い。頭がぐらぐらする。視界が定まらない。
力が入らない、ダメだ・・。








『菊、御覧なさい。桜が咲いていますよ』

『どうしました?仕事で嫌な事でもありましたか?』

『大丈夫ですよ、私がついています。菊、顔をあげなさい。』

『今日は鍋にします。寒いですからね』

『なんです?寒いのですか?では今日は一緒に寝ましょう』


『菊・・』




ふわっと、優しい手つきで頭をなでられた気がした。

それはとても優しくて、温かい。

懐かしい・・・・・




・・・あにさま・・・







「菊、起きたあるか?」

「や・・・お、さん・・?」

「そうあるよ。」


柔らかいベッドの上で目が覚めた。
なぜ自分はこんなところで寝ているのだろうか。
確かシャワーを浴びていたはず・・・



「倒れてたあるよ。」

「え?」

「風呂場で。だから我がここまで運んだある。」


そうか、あのまま私は倒れたのか。
なんて事だ。
放っておいてくれて良かったのに・・。



「あの・・、どうして耀さんがここへ?」

「会議の時に落としたあるよ」


耀さんがそう言って差し出したのは藍色のハンカチ。
確かにそれは自分のだった。


「わざわざ、すみません。」

「かまわねぇあるよ。それより菊、聞きたい事があるね。」

「はい、何で・・・・、耀、さん・・?」

















―――バシン

頬が熱い。
熱がたまるのが分かる。
そうしてやっと、叩かれた事を理解した。

鉄の味がする。
口の中が切れたのだろう。


耀さんが怒鳴っている。
怒っている。
とても、怒っている。


「うっ・・ぁ・・」

髪を引っ張られる。
顔を叩かれる。
お腹を蹴られる。

さっきフランシスさんのところで食べたものが上がってくるのが分かった。




痛い、痛い、痛い・・・・っ









「何してるんだぜ!?」

「先生!菊さん!」

「放せっ!!放すある!!!」


扉の開く音とともに、耀さんからの攻撃がやんだ。
香さんが私の身体を抱き起してくれる。


耀さんはまだ怒りが収まらないみたいだ。

痛い、身体が。

痛い、とても――。

痛い、痛い、痛い。





「お前は誰にでも簡単に足を開くあるか!!汚らわしいっ!!!!」
『お前は誰にでも足を開くんですね。あぁ、汚らわしい。』

「兄貴っ!!」


何かが崩れた様な気がした。
何かが、音をたてて崩れ去った。

いやだ、違う・・・
違う、違う、違う、違う!

そうじゃないっ!!
違う!!!違う!!!






















気がつくと、朝だった。

あの後どうなったのかは、よく覚えていない。

勇洙さんが耀さんを連れ出して。

香さんが私の事を心配してくださったが、一人になりたいと行って、で、それから

それから、それから、それから・・・・・。







あぁ、今日も会議だ。








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