短編

□未来を信じて
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自分の弱さを初めて悔やんだ。

今まで喧嘩で負けても馬鹿にされても何とも思わなかったのに。

白旗を振る事に何の抵抗もなかったのに。

悔しくなんてなかった。

相手に許しを請う事も、平気だったのに・・。






「悔しいよっ・・こんなの・・・・」






3人でいる事が大好きで、幸せで、楽しくて。

一緒に話をしたり、ご飯を食べたり、観光したり。

訓練は好きじゃないけど、でもルートと菊が一緒だからそれすらも楽しくて。

ずっと続いてほしいと思うような幸せな時間。

大好きな2人と一緒にいる事が本当に、楽しくて。








「こんなに、こんなに、悔しい・・っ」






菊の事が大好き。


ルートの事だって大好き。

だけど、それとはまた、違う。


俺は菊を愛してる。





菊の事を、愛してる。
俺は弱くて、泣き虫で、頼りないけど、でも菊を守りたいと、心から思っていた。
何を犠牲にしたっていいと思えるくらい、そう思っていたのに。

現実にはそんなこと出来ない。

そんな事は、出来ていない。



だって、俺はフェリシアーノだけどイタリアでもあるから。

菊だって、菊だけど、日本でもあるから。

愛しい人がいても、一心に愛せない。

国民が第一で、自国をもっとも大切にしなくてはいけない。
それは、俺も菊もそうで、だからこそもどかしくて・・。





「もう諦めて降伏しな。お前はもうこれ以上戦えないよ。」

「いやだ・・、嫌だよっ・・・俺は、まだ、戦いたい・・っ」

「・・・でも、お前んとこの国民はもうそんな気力は残ってないだろ」


フランス兄ちゃんが言わんとしている事が痛いほどわかる。

だって、俺の国民だから。

何でこんなに俺は弱いんだろう。

何でこんなに弱いままなんだろう。





菊が大好きで、愛しくて。

菊といたら無条件で幸せで。

目が合うだけで気分が上昇して。

今まで女の子を見たら条件反射みたいに口説いていたのがウソみたいに

ただ菊だけが愛おしい存在になって、ただ菊に愛を囁いて。

菊と出会えた奇跡に馬鹿みたいに感謝して。

一緒にいる時間を何よりも大切にして。

菊を、心から好きだと思って・・・。





「お前はよく頑張ったよ。ヴェネチアーノ。お前も、ロマーノも。」

「なんで、なんでこんな事になっちゃったんだろ・・」




俺がもっと強かったらみんなを守れたの?

まだ戦うドイツを、日本を助けれたのかな。

ローマ爺ちゃんくらい強かったら、こんな喧嘩なんかしなくていい平和な

幸せで温かい世界を作れたのかな・・。

愛しい人を、守れるかな・・・











大好きで愛おしくて仕方がないのに。

心の底から愛おしいと思える人を守る事すらできない。

一緒に戦う事も、もう叶わない。

ここで俺が許しを請えばもう痛い思いをしなくて済む。

得意のお手製白旗を振ってしまえば、終わるの。

だけど、そうしてしまったら大切な人の敵になって、大好きな人を裏切る事になるんだ。



もっと、もっと、強ければ。

俺の心が、身体が強ければ。

そうすれば、こんな思いをしなかっただろうし

こんな思いを、させる事もなかった。





「誰もお前を責めないよ。」





フランス兄ちゃんの言うようにきっと、俺がここで降伏しても誰も俺を責めないんだろう。

ドイツも日本も、絶対に俺を責めないんだ。
それで、ドイツは『仕方ないな、お前は』て言って苦笑いして

日本はあの柔らかい春の木漏れ日みたいな優しい微笑んで

それで俺で『無事でなによりです』って言うんだ。

それで優しく二人は俺を受け入れてくれるのだろう。

だって二人は本当に優しいから。

バカみたいに、優しいから。








悔しい。

いっそ怒鳴ってくれれば。

いっそ許さずに蔑んでくれれば。

いっそ突き放してくれれば。








だけど、きっと二人はそんな事しない。

優しい二人はそんな事、絶対に出来ないんだ。

何で俺はこんなに弱いんだろう。

自分が悔しい。

こんなにも自身を嫌だと思ったのは、初めてだ。































「イタリア君、お元気そうでなによりです。」

「日本・・・、俺・・」




こんなのって、笑っちゃうね・・。
だって、こんなの・・。

大好きな人と再開したのが戦場で。

立場が仲間から敵同士に変わってて。

守るどころか、攻撃して、倒さなければいけないんだもん。

こんなの、笑っちゃう。笑っちゃうよ。




「ドイツさんも元気だといいのですが・・」

「日本・・、俺は、俺は・・・」




日本はこんな状況なのに昔みたいに笑ってくれていて

俺は、どうしたらいいのか分からなくて。

日本は所々怪我していて。

見ているだけで涙が出そうで。

だけど、俺にはもう、どうする事も出来なくて。

悔しくて、悔しくて。

こんなに弱い。

ごめんね、俺がもっと強かったら。

こんなに弱くなかったら。

もっと、もっと、愛しい人を守れるくらい強かったらよかったのに

ごめん、ごめんなさい・・。





「イタリア君、泣いてはだめですよ。」

「だって・・、にほ、ん・・」

「大丈夫です。私は負けません。きっとまた、笑って過ごせますよ。」




力強い日本のその言葉が。

日本の優しい声が、笑顔が、体温が、雰囲気が。

懐かしくって、愛おしくって。

日本が大好き。

愛してる。

本当に、心の底から・・。




「にほ、ん・・おれ、ごめん・・こんな、俺が、弱いから・・」


こんなにも俺は弱いから日本に負担をかけて。

困らせて、気を使わせて・・。

自分が情けないよ。




ごめん、ドイツ、日本・・。






ごめん、ルート、菊・・。







「イタリア君がいて本当に良かったです。」

「に・・ほん・・?」

「私はまだまだ頑張れそうですよ。だって大好きな仲間がいるんですから」




日本は本当に優しくて。

ルートも優しくて。

そんな二人が大好きで。

俺は菊を愛していて。






「きく、俺・・菊に言いたい事があったんだ。菊に、伝えたいことが。」

「おや、なんですか?」

「今はまだ秘密だよ!でも世界が平和になって、菊と一緒にランチを食べに行けたら、伝えるね」





幸せな世界で。

温かく笑い合える日がまた来たなら。

次は絶対にその手をとって。

次は絶対に俺が守るんだ。

ドイツと日本を。

ルートと菊を。

俺が、守るからね。






だから、世界が早く平和になりますように。



喧嘩のない、笑顔の世界になりますように。







俺、頑張るよ。

強くなれるように。

次は絶対守るって決めたから。

どんな厳しい訓練も耐えるんだ。

絶対に逃げたりしないから、だから、だから・・







お願い、これ以上俺の大事な人を傷つけないで・・。





END

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