短編

□雨の日のお迎え
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同じリズムのまま振り続けるそれは

どんどん酷くなっているようにさえ思えた。

空を仰げば先ほどまでは晴れていたのが嘘のように、分厚い雲に覆われてしまっている。




「あいやー、困ったある・・。」



通り雨のようなものではないそれは、段々と周りの温度も下げていっていた。

秋が終わり、冬も始まり、という今の時期。

それなのにちょっと近くまで買い物に行くだけだと、薄着で出かけた少し前の自分を呪う。




指先が冷たくなっている。



はぁ、と息を吐くと白くなった。













雨は一向に止む気配を見せない。

もう諦めて走って家まで帰り、速攻で風呂に入ろう。

うん、そうするある。






駆けだそうと、一歩踏み出したところで

前から走って来る者がいるのに気がついた。



「あ、まに・・あっ、たのですね・・」


ハァハァ、と辛そうに息を繰り返し、それから顔をあげたその人物のは

我の自慢で弟、最愛の恋人である菊だった。


まだ少し辛いのか、大きく息を吸い込んで吐き出して。




菊の息も白かった。




「菊、大丈夫あるか?それにしても、どうしたある?」

「どうした、じゃないですよ。」



あなたの家に行っても誰もいませんし
雨は降っているのに玄関に傘は置きっぱなしだし・・。と

早口に言った菊の耳は心なしか赤くなっていた。



それは、寒いからあるか?それとも・・?





「わざわざ、迎えに来てくれたあるか?」

「風邪、引かれたら困りますから。」




そう言った菊は、俯いてしまって顔は見えなかったあるが

でも、さっきよりも耳が真っ赤になっていた。



「何笑ってるんですか!」

「何でもないあるよ!さぁ、帰るある」




さっきまでは憂鬱だったはずの雨音も。

今は悪くないと思える。

それは、横に菊がいるからなのだろう。




「さっきから、何ですか。人の顔見て笑って・・。」

「何でもねぇあるよ。それよりも次は傘は一本でいいある」

「は?何言ってるんですか?」

「次は菊と相合傘ある」



菊の右手を握ると、自分の指先がまるで溶かされるように。


包みこまれるように温かくなっていった。








あぁ、なんて素晴らしい時間。





END

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