短編

□貴方の代わりはどこにも居ない
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俺は三人の兄と一人の姉がいる。


一番上の兄は中華料理屋を経営している。


二番目の兄は会社員だ。


三番目の兄と姉は大学生。




俺も今年、高校を卒業して大学か就職かを迫られるはずだった。












俺と、あの人は家族で。

絶対、変わらない事実。

どうしたって、敵わない相手。

心から、尊敬していた。





そして、愛していた。








間違った想いだという事は百も承知だ。

俺たちは、家族だから。

俺の勝手な思いで、家族がバラバラになるのが怖かった。

菊さんに、軽蔑されるのが情けないくらい怖かった。








だから、アーサーさん家に行く事になって、寂しくもあったがそれ以上に安心した。

離れれば、きっとこの想いに終止符を打てると思った。



きっと、何かが変わると思った。



それから、アーサーさんのところで英語を教えてもらったり

イギリスの文化に触れたりと楽しくて刺激的な日々を送っていた。







菊さんの事も考えられないくらい



忙しい毎日に俺は安心しきっていた。

















「香、お前に手紙だ。」

「thank you」


彼女からか?とにやにやしながら問うアーサーさん。

彼の言葉を笑って受け流しながら裏面を見るとそこには

忘れかけようとしていた、唯一愛おしい人の名前が。



















――香さん


お元気ですか?そちらでの生活はもう慣れましたか?

私たちは相変わらずです。ヨンスさんも昼夜問わず元気で耀さんがうるさい、と怒鳴っています。

湾さんは大学のレポートに追われて最近まで忙しそうにしていましたが、それも終わりこの間は夕食を作って皆に振舞ってくださいました。
香さんにもぜひ食べていただきたいです。
湾さんはとてもお料理が上手になられたのですよ。



私も相変わらず仕事に追われています。
やりがいがある、と言えばそうなのですがやはり大変ですね。

なかなか定時で帰れないので、耀さんが「お前は働き過ぎある!少し休むあるよ」なんて言って
私はもう子どもではないのに。


相変わらず耀さんは過保護です。


香さんもまた、お暇があればぜひ手紙や電話をお待ちしております。
耀さんもヨンスさんも湾さんもなかなか口にはしませんが、香さんからの連絡を楽しみにしております。



私も、香さんがいなくなって寂しく思っています。
お恥ずかしながら、香さんの部屋の前を通る時、料理を人数分皿に移すとき。

一緒に買い出しに行った店へ訪れた時など。

とても、とても寂しくなります。

こんな事を言ってしまったら香さんを困らせるだけだとは分かっているのですが・・。

実にすみません。

留年の期間は2年でしたよね。


アーサーさんは優しい方でしょ?

香さんを面倒見てくださる方がアーサーさんで安心しています。



英国は雨が多いと聞きます。

お体には十分気をつけてください。                  
              



                菊――――





「菊さん、アーサーさんは本物の変態ですよ?」

「菊さん、俺も菊さんは働き過ぎだと思います」

「菊さん、菊さん、菊さん・・・っ」




俺は、英国に来て。

菊さんへの想いを断ちたくて。

女の子と遊んだりもした。

それなりの関係になった事も。




でも、やっぱり、どうやったって・・。


俺は菊さんの事が、好きみたいです。





すみません、大好きです。





愛しています。





END

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