短編

□跳ね上がった心で気づいた
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興味がなかった訳ではないけれど、でもそれは新しい商品を見てみたいと思うのと同じくらいの感情。

別に、他の奴らみたいに騒ぐほど綺麗だとか、可愛いと思わなかった。

俺は美しいものがすごく好きだし、それを愛すのが礼儀だとすら思っている。



確かに彼は同じ男の割に細身で、華奢だと思う。

でも顔立ちは同じ亜細亜なら耀の方が整っているのではないだろうか。

彼の顔立ちは一言で言うと、地味だ。俺の第一印象はその程度だった。



あまり心惹かれるものではない。

亜細亜なら隣国の耀の方がタイプかな、というかなり失礼なもの。




別段話す機会もなく、俺も自分から話しかけたりもしなかった。

彼も他人とのコミュニケーションが苦手らしく、そんな事もあって話すのは自然と業務的な事だけになっていった。



























「あれ、ここ・・で、あってるよな・・?」


今回の会議はいつにもまして延滞していた。

まぁ、原因といったらアルフレッドの意見にアーサーが反対してそれにさらに俺が間に入って
アーサーと口論になっている間にアルフレッドとイヴァンが冷戦状態。
フェリシアーノがお腹すいた!と言いだしアントーニョの奴が内職、耀が遅刻して
それにルートヴィッヒが怒鳴っていったん会議に戻って・・・。


まぁそれでまた同じようになるから、会議がなかなか終わらないんだけどね。





今日でもう3日目だ。

その会議室がここで時間は10時から、って言っていたはずなんだけど

何故か目の前の部屋には誰もいない。時計を見たら針は9時32分を指している。

まだ開始まで時間があると言っても、いつもなら誰かがもう居るはずだ。


連絡をしようにも携帯電話をホテルに忘れてしまっている。







どうしたもんかな・・・。


















「フランシスさぁーん!」


時計と部屋を見比べていると後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

良かった、と少しホッとしながら声の方向へ振り返るとそこには走ってくる彼の姿が。



「あ、ハァ、ハァ、す、みま・・せん、あの、ハァ、か、いぎなんで、すけど・・」


長い距離を走って来てくれたのか、顔を赤くさせ荒く息をする彼、本田菊ちゃん。

俺は落ち着いてからでいいよ、と言って彼の背をさすってやる。

菊ちゃんはビックリしつつも、すみません、とペコっと頭を下げた。











「もう平気です。すみません、フランシスさん」

「いいのいいの、それより今日の会議って時間10時からじゃなかったっけ?」

「あ、それなんですけど変更になって、午後2時からに変更になったんです」



そう言って困ったように笑う菊ちゃん。
あれ、でも・・・?



「菊ちゃん・・、議長じゃないよね?今回」



今回の会議はスペインで行われた。

だから議長はアントーニョのはず。

でも変更を伝えに来てくれた目の前の人はアントーニョではなくって。




「あ、すみません。アントーニョさんは開始時間まで仕事が入ってしまって・・」

「あぁ、だから変更か」

「はい。フランシスさんは連絡しても繋がらないとの事だったので、僭越ながら私が連絡役を申し出たのですが・・」



遅かったみたいですね、本当にすみません。そう言って頭を下げる。

別に菊ちゃんは何も悪い事なんてしていないのに。




「いやいや、菊ちゃんはわざわざ俺に伝えに来てくれたじゃん!謝んないでよ」

「ですが、連絡が遅れたのは・・」

「俺のせいだよ、ホテルの部屋に携帯忘れちゃってさ」



そう言ってもまだ申し訳なさそうに眉を下げたままの菊ちゃん。

彼は本当に急いで走って来てくれたのだろう。

薄っすら汗をかいて、髪が頬に張り付いている。



「あ、じゃあさ、お昼に付き合ってくれない?」

頬の髪を指で摘まんでそう言うと、菊ちゃんは目をまんまるに見開いて俺の顔を見つめる。



「え?」

「菊ちゃんと、もっと話がしたいんだ」

「え、でもそんな・・」

「いや、かな?」



いいえ、滅相もないです!ぶんぶん、と首を振りながら言う菊ちゃんが可愛くって頬が緩んだ。



俺はどこの店に言ったら喜んでくれるか、ゆっくり話ができるかを考えていた。




「私も、フランシスさんとお話がしたいと思っていたんです」



そう言ってふわ、と笑った菊ちゃんの顔が本当に綺麗で。

思ったよりも菊ちゃんの顔が近くにあってドキっとした。



地味だと思った顔立ちは、本当はすごく整っていて。

黒い瞳が綺麗だとか、まつ毛が長いとか、幼さ残るでも目を惹かれる綺麗さに気づいて。




あぁ、ダメだ。



抑えられない。



興味ないと思っていたのに。



そんな対象にはなりえない筈だったのに。





「菊ちゃん、聞いてほしい事があるんだ。実は、俺――――」





跳ね上がった心でやっと自分の感情に気付くなんて・・。



俺も、まだまだだな、なんて。



とりあえず、お友達から・・・・

END

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