短編

□この電話を切れば終わり
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電話がかかってきたのは日が落ちてきた頃だった。


きっとあいつの所は夜も遅い時間だろうに。








それからしばらく他愛もない話が続いた。


最近食べた物や弟の事、あいつのペットのぽちの事。


そんな、どうでもいいような会話が妙に心地よく、そして寂しく思えた。






あいつは何も言わないけど、今日で最後なんだと分かってしまった。




同じ国の化身同士。



人の形をして、人と同じような感情を持っている俺たちは。


どうしてか、誰かを愛する心も持っていて。


だけど一番大切なのは自国民で。


それは、俺もあいつも。


それ以外の国の化身の奴らにも言える事で。









付き合い始めたのはどれくらい前だったか。

長かったような気もするが、今では短かったとしか思えない。


まだ、菊に見せたいものもあった。

まだ、菊に食べさせてやりたいものがあった。

まだ、菊に話してやりたい話も、してやりたい事も、一緒にしたい事もあった。





これからも菊の話を聞きたい。

これからも菊の料理を食べたい。

これからも菊の笑顔を見たい。



そして、願うのはただ、これからも菊の傍でいるのが俺である事。









「ね、ロヴィーノ君もそう思うでしょ?」

「あぁ、そうだな。」



他愛もない話をできるのも今日で最後。

この電話を切れば、菊とは知り合い、友人の一人に戻ってしまう。





「・・ロヴィーノ君・・。」

「なんだよ」

「私、ロヴィーノ君が好きでした。」




過去形なのは、菊なりの優しさなのだろうか。




そんな声で言われて、俺はどうすればいいんだよ。







「本当に、大好きでしたよ。ありがとうございます」



感謝なんてされたくない。


俺は、まだお前にしてやりたい事がたくさんあるんだ。


素直に言えなかった事だってあるんだ。





「そろそろ、切りますね。ロヴィーノ君も、もうそろそろ夕飯でしょ?」




実際俺の後ろのドアからバカ弟とアントーニョのバカが見ていた。

何だかんだで、二人は俺達を祝福していたらしい。



なんで、なんで別れなくちゃいけねぇんだよ・・っ



理由なんて、簡単すぎるほどの些細な事だった。


俺達が、国だからだ。


国の化身である俺たちの意思は合って無いようなものだ。


それでも俺たちは惹かれあって、お互いに過ごしてきたが。


もう、我儘を言えなくなってしまった。






「菊、俺は・・。お前の事が好きだ。今も。これからもだ。」

「ロヴィーノ君・・」

「過去になんかしたくない。今は、ダメかも知れねぇけど。」





でも、また絶対にお前の傍に行くから――。





それだけ言って俺は受話器を下ろした。









卑怯者で臆病な俺は待っていて欲しいなんて言えない。




菊の返事を聞く事も、今は怖くてできない。




少し震える手を、ゆっくりと電話から離した。







END

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