短編

□生きて欲しかった
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ギルベルトさんが、死んだ。









死んだと言うと、語弊があるのかも知れませんね。

正確には、消滅した、と言うべきなのでしょうか……。





















「すまないな、本田も忙しいだろうに。」

「いえ、そんな……。」



どうにもならないと分かっていながら

居ても立ってもいられずにルートさんの家を訪ねた。



疲労と寝不足のせいだろうか。

やつれて顔色の悪いルートさん。


突然来て申し訳ありません、と謝罪すると小さく笑いながら首を振られた。

聞けばフェリシアーノ君が先ほどまで来ていたらしい。

他にもフランシスさんやアントーニョさん、ローデリヒさんやエリザさん…。





「兄さんは、あれだったがちゃんと好かれていたらしい。」


そう言って力なく笑う姿がとても痛々しかった。







「本田、兄さんの部屋を見て行ってくれ」

「・・え?」

「兄さんが最後にいた場所だ。」



あぁ、ルートさんはきっと泣いていないのだろう。

あの人が居なくなってから、一度も。

ルートさんはこれから、一人で仕事をしてそして

誰も、もういないこの家に帰ってこなければいけない。




「本田は、兄さんと付き合っていたんだな」

「え・・、どうし、て・・」





誰にも話していない。



誰も知らない、真実。





「兄さんが、教えてくれたんだ。……次の日の朝、兄さんの姿はどこにもなかった。」


とても悲しそうに笑うルートさん。

それなのに、手のひらは堅く拳を握っていて……。

まるでそうしないと、立っている事さえできないという風に。



「きっと、兄さんは分かっていたんだろう。自分がもうすぐ消えると言う事が。」







ギルベルトさん部屋は、前に訪れた時と何にも変わっていなかった。


机、本棚、テレビにベッド……


確かにあの人はここにいたのに。







「ギルベルトさん・・・・」

もう、声を聞けない

「・・・ギル、ベルトさん・・・」

もう、姿を見る事は出来ない

「・・ぎ、・・ル・・・さ・・ん・・・」

もう、大きな手でなでてもらう事も、軽口をたたき合う事も出来ない

「・・・・・・・っ」

もう、寄り添う事も出来ない







手をつなぐ事も、抱き寄せてくれる事もないのですね


貴方はもう、私に愛を囁いてはくれないのですね


・・・・あなたはもう、いなくなってしまったのですね



「ぁ・・・あぁ・・・・あぁぁああああああ」






あの人がいなくなって、初めて泣いた。


子どものように。


赤子のように。


せき止めていたものが、全部流れ出して。


声もが枯れても泣き続けた


涙が枯れるようになるまで、泣いた。










覚悟はしていたはずなのに。





だって、本来なら貴方はもっと早くに居なくなってしまう筈だったから。


師匠、貴方をそう呼んでいた時はずっとあなたには勝てないと思っていた。


貴方の国が無くなり、ルートさんが新しい国を支える。


消滅する筈だったのに、いつまでも消滅しない事を笑いながら話してくれたとき


本当は泣きたいくらい安心したんです。












すごく、すっごく、貴方の事が、好きだったんです。




貴方は、国としての仕事もない自分が生きている事に不満そうでしたが・・・・。




私は、ただ貴方に生きていて欲しかった。





そう思うのは、私のエゴなんでしょうか







END

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