短編

□保障のない約束
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契約書も証拠もない。


ただの口約束。


私とあの人しか知らない、秘密の約束。


それは守られるのか定かじゃない。


あの人の関心はもう私にはないかもしれない。


あの人はもう、忘れてしまっているかもしれない。






それでも、私は忘れられずにいる。















「好きだ、菊。本当に・・、愛している」



アーサーさんに呼びとめられたのは会議室を出て、すぐの事だった。

紅茶をご馳走してくれるというのでお家にお邪魔させてもらった。



そして、告白された。



心底願うように、言うアーサーさん。









「すみません・・・。ごめんなさい、私は・・・。貴方のお気持ちにお答えできません」




酷い私。


酷い、本当に。





アーサーさんは青白い顔をしつつも、でも怒る事も理由を聞く事もなく

少し微笑んで、分かった、とそう言った。

なんて、優しいんだろう。





それから、どうやって自分のホテルに帰ったのかは分からない。








どうしようもなく暴れる心臓を抑える術など分からなくて。


初めて恋をした女の子のように赤くなる頬を冷ます方法が分からなくて。


乱れる息を整える事すら・・。








なんて、なんて酷い人なんだろう



好きだなんて。



愛しているだなんて。



私には、あの人だけだったはずなのに。






END

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