短編

□あの頃、そして今やっと
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あの頃、全てが貴方でした



あれから時間がたって気付いたことが随分あるんです



それは苦しくて、恋しいキモチが初めてだったからなんでしょうか






「…おぉ、菊」

「ぁ…、」

「久しぶりやのう」

「えぇ、本当に。蘭さん」




私、笑えてますか?






会議が終わってだいぶ遅くなった時間

ホテルまでそう遠くない事と、星が綺麗だったから歩くことにした



ふと、顔をあげたのは貴方の部屋から明かりが漏れていたから

そして、楽しげな声が聞こえた気がしたから





どうか今は、幸せでいてください










「相変わらず細っこいのう」

「これでも鍛えているんですよ」

「…のう、俺たちもうやっていけんのか?」





なんでそんな事言うんですか


なんでそんな顔するんですか


なんで、貴方はまだ私を気づかってくれるのですか






「どうか、幸せになってください」











あの頃、蘭さんが全てだった


あれから時間が経ってやっと、向き合えたんです


愛しくて恋しいあなたの幸せを、今は願えるのです






連絡がつかなくて怖くて不安すぎて


やっとかかってきた電話に苛立ちをぶつけてしまった事がありましたね


私は可愛げがなくって幼かったかもしれませんが、蘭さんが大好きでした










友人に『別れた』という度に


理由を聞かれるたびに、胸が痛くなって


勝手ですよね


答えていくたびに、気付いてたんです


もう貴方は『モトカレ』になってしまったんだと










前は耳が痛くなるたびに聞いた貴方の噂


でも、もう私の耳にそれは届かなくて


貴方と私の、共通の友人とも少しずつ会わなくなっていきましたね







あの頃、私の全ては貴方でした


あれから時間が経ってやっと、出会えたんです


愛しい恋しいキモチになれる人が、今私にはいるのです








やっとあなたの幸せを私は願えます







そしてやっと今、過去になりました









貴方の事ばかり考えていました


出会ってからサヨナラまで


初めてあんなに恋をしたんです






私の我儘をたくさん聞いてくださってありがとうございます


楽しい日々を


優しい時間を


温かい気持ちを


私に教えてくださってありがとうございます




あの頃、全て蘭さんでした




貴方と過ごしたあの日々を後悔なんてしません


愛しくて恋しい、幸せ


きっと、それぞれ続いていきますよね






私は、やっと今あなたの幸せを願えます


そして、今度は終わらない恋になりますように





臆病な私は願ってしまうのです










「ヴェー、菊!…きく?どうしたの」




楽しかったんです


幸せだったんです


嬉しかったんです


辛くて苦しい事もたくさんありましたけど


でもあの頃の私は、貴方が全てだったんですよ


本当なんですよ、蘭さん?








「なんで泣いてるの?どっか痛い?大丈夫?」

「ごめんなさい、大丈夫ですよ。フェリシアーノ君」





今日だけ


もう大丈夫ですから


私には愛しくて恋しいと思える今があるのです


蘭さんの事をやっと過去にできるのですから


そして、やっと私は蘭さんの幸せを願えるのです









あの頃すべてが貴方でした


たくさんの幸せをありがとうございます


どうか、幸せになってください






END
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