短編

□拍手にあった小話
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小さい頃、まだ、兄貴の家に住んでいた頃。

兄貴は忙しくて帰ってくるのが遅い日も多々あった気がする。

そんなとき、寂しくなかったのは隣にアイツがいたから。





雨が降っている日。


風が強い日。


雷が鳴り響いている日。


兄貴がいないと不安で仕方なかった。






でも、それでも安心して眠れていたのは隣に菊がいたからだ。






『かみなり、すごいですね・・』

『きく!おへそをかくさないととられちゃうんだぜ!!』

『それはたいへんです!!』





そんな事を言って一つの布団にもぐりこみ手でへそを押さえた日もあった。



いつだって菊は隣にいた。



だからそれが当たり前になっていた。






雪の日はお互いに寄り添って。



雷の日は手を握って。



暗闇に飲み込まれないように。






些細な話もたくさんした。

明日はどこで遊ぼう。

明日はこれが食べたい。

明日はあれが見たい。





寂しいはずの夜は、楽しい夜になっていた。











兄貴が早く帰ってきた日は兄貴を真中に三人で一緒に寝た。







菊がいたから楽しい夜だった。



不安も消えた。










でも、寂しくて、不安でどうしようもない夜もあった。


そんな時は二人で少しだけ泣いた。


それから同じ布団に入って手をつないで寝た。















今は、寂しくても。


今は、不安でも。


今は、雪の日も雨の日も、雷の日だって。








傍にアイツはいない。


隣で笑う菊はいない。


一緒に泣いてくれる菊は


手を握ってくれる菊は


不安を半分にする菊はいない。









「おやすみ、なんだぜ」







誰もいない空間に、自分の声が小さく響いた。






END
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