気付いたら隣に…

□気付いたら迷子
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なにがなんだかわからなかった。

昨夜、寝たのは明け方近く。
仕事から帰り、資格取得の為の勉強をしていたら、気付けば深夜を過ぎていて。
残る気力を振り絞ってメイクを落とし、浴衣に着替えてベッドに入った…はずだった。

ちなみに浴衣で寝ている事に、深い意味はない。
現代日本で、浴衣をパジャマにしているのは珍しいとわかっているけど、気まぐれで試してみたらやけに気に入ったというだけで。
ちなみに下着は着けておらず、ささやかな開放感も私のお気に入りだったりする。

そんないつも通りの夜…だったのに。

気づけば浴衣姿のまま、森をさ迷っていた。

目覚めた記憶も、出かけた記憶も、この森に関する記憶もない。

裸足の足には石や枝が容赦なく突き刺さり、一歩踏み出す事すら怖くて痛い。
しかも着ているのは記憶に違わず浴衣一枚のみで、月明かりしかない森を歩くのは心細くて寒くて辛い。

なんなんだろう、一体。
まるで悪夢のようだけど、現実的すぎる足の痛みがそれを否定する。

本当は一歩踏み出すことすら辛いのだけど、でもそれ以上に、ジッとしていると心が折れそうで。
私はのろのろと、人を求めてさ迷っていた。

瞬間、ガサっと頭上の枝が大きく揺れた。
初めて感じる生き物の気配に、肩をすくめて体を強ばらせる。
押し寄せる恐怖に目眩がして、木の幹に身を寄せながら目を閉じた。

「おい」

背後から聞こえた声…のようなもの。
こんな森の中に人がいるとは思えなくて、たまたま人の声のように聞こえた動物の鳴き声だと、信じて疑いもしなかった。
更に体を強ばらせ、やり過ごそうと息をひそめる。

すると背後の気配は、私に近付いてきたのだった。

「そこで何をしている?」

…ひ、と?

ゆっくりと振り向くと、なんとも時代錯誤な格好をした青年がいる。
その姿に少々ビックリしたけれど、今の私にはそんな事はどうでもよかった。

人がいる。
人に会えた。

その安心感で足元から力が抜けていく。

「お、おい!?」

へたり込んだ私に近付いて、青年は顔を覗き込んできた。

「お前…大丈夫か?」

他人を思いやる言葉…。
それはきっと、彼は私のように追い詰められていないという証拠で、
つまり彼はここを多少なりとも知っているということで、
思わず、彼にすがりついていた。

「…っ!?」

青年は動じることなく、私を受け止めてくれた。
一瞬だけ目を逸らしたものの、すぐにこちらを見てくれて。
その視線に何故か少しだけ安心感を覚えながら、私はようやく口を開いた。

「ここ…どこですか…?」

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