気付いたら隣に…

□辿りついた場所
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唐突に揺れがおさまったので、そっと顔を上げてみると、
そこには大きな建物があった。

日本家屋…いや、家屋と言うより、屋敷かな?

あまりにも大きなその建物に驚いていると、彼は平然と中に入っていった。

ここが彼の言う『学園』なんだろうか?

なんだか現実感がなくてぼんやりと周りを見ていると、ある部屋の前で彼は立ち止まった。

「…開けてくれ」

彼の両手は、私を抱いているため塞がっている。
私は頷いて、目の前の障子を開けた。

「失礼します。…っと、今日は伊作が当番か」

「文次郎、その子…!?」

いさく、と呼ばれた明るい髪色の青年は慌てた様子で立ち上がる。
もんじろう、と呼ばれた私を抱き上げている青年は、部屋の中に入るとそっと私を座らせた。

「裏々山に迷い込んでてな。足をみてやってくれ」
「足?…傷だらけじゃないか!!」

いさくさんはてきぱきと何かを準備し始めて、座った私の隣ではもんじろうさんがその様子を眺めていた。

もんじろうさんも、いさくさんも、何も言わない。

声を掛けて良いものか少しためらったけれど、今を逃すとチャンスがなくなりそうで。
私はおずおずと、傍らに立っている彼の服を引っ張った。

「ん?」

「もんじろう、さん?」

いさくさんが口にしたように呼んでみると、
彼は、あぁ、と小さく返事をした。

「名乗っていなかったな。潮江文次郎だ」

潮江、文次郎、さん。

確認するように小さく呟いて、改めて彼を見る。
文次郎さんは動けない私を気遣ってくれているようで、
体ごとこちらを向き、聞く体制を取っていた。

「ありがとうございます」

そんな彼に、
私は頭を下げた。

今、こうして落ち着いて座っていられるのは、彼のおかげだ。

どうにかなってしまいそうな、悪夢のような森の中から救い出してくれた事。
感謝してもしきれない。
今の私には恩返しも何も出来ないけど、せめて気持ちは伝えておきたくて。

床に座って上体をひねった、ちょっと不自然な姿勢だったけど。
私は出来るだけ深く頭を下げた。

少しして顔を上げると、彼は驚いたような照れたような顔をして、あ〜、とか、う〜、とか言っていて。
そして最終的に、私の頭にポンと手を乗せ、

「気にするな」

と呟いた。

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