気付いたら隣に…

□刹那の休息を
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「失礼しました」

一礼して部屋を出て、ほぅと安堵の息を吐く。
今日の宿直は土井先生だった。

忍術学園の教師陣の中でも土井先生は、一際若くて話もしやすい。
そして今回、城崎に関する報告を聞いた先生は、俺の判断を全面的に信用してくれた。

火急の対応は不要とした上で、俺と伊作に見張りを命じ、
学園長先生への報告や城崎の処遇をどうするか等の判断は、明日の朝まで保留。

そう結論を出した土井先生の言葉を聞いて、
正直、助かったと思った。

今の城崎には時間が必要なように思う。
学園長先生に会うのは、もう少し落ち着いてからの方が良いだろう。

自分が何故こんな風に城崎を庇おうとしているのかはわからないが、
ただ、このまま城崎を放り出すような真似はしたくないと思った。

後味が悪いしな。

そんな事を考えながらカラリと医務室の障子を空けると、治療道具を手に立っている伊作が目に入った。

「治療は終わったのか?」

そう問いかけると、なんともぎこちない返事が返ってきて。
不審に思って伊作の視線を辿ると、自らを抱きしめるようにして、体を小さくしている城崎がいた。

再び伊作に視線を戻す。

矢羽音を使わずとも、何があったのかを問われていると察した伊作は、
ふるふると首を横に振った。

…これは予想外だ。

俺は、自分の与える印象が親しみやすいものではないとわかっている。
知らない仲ではない後輩ですら、俺と話す時に緊張を見せる者は少なくない。

それとは対照的に、誰の懐にでもするりと入ってしまうのが伊作だ。
敵対する城の忍者とさえ仲良くなってしまう伊作のそれは、もはや才能だと思っている。

だから、俺は。
俺が土井先生に報告に行っている間に、
伊作と城崎が打ち解けて、談笑でもしているのでは…と、なんとなくそんな風に考えていたのだ。

だが、実際に帰って来てみれば。
体を強ばらせ、どこか怯えた様子を見せる城崎と、
訳がわからず戸惑う伊作がいた。

はっきり言えば、この状況でどう動いたら良いかなど、俺には皆目分からない。
だが伊作でダメなら、俺が動くしかないではないか。
城崎を連れてきた責任というものもある。

…とは思うものの。
残念ながら俺に出来る事と言ったら、たった今先生に話してきた内容を城崎に告げる事くらいだった。

「明日の朝、学園長先生が話を聞きに来られるそうだ。それまでは休んでいろ」

すると、わずかに城崎の肩が震えたのがわかった。
どうやら『学園長先生』という言葉に反応したようだが、その理由がわからない。

学園長先生と言えば、
かつて天才忍者と謳われ、今でもその手腕は衰えていない。
…が、そういった姿を見る事は極稀で、どちらかと言えばお茶目なじいさんという印象の方が強いのだが。

何も知らなければ、怖いのかもしれないな。

俺は城崎の側に膝をつき、肩に手を置いて落ち着かせるように言った。

「大丈夫だから、そう心配するな」

その言葉をどう受け止めたのか。

顔を上げた城崎の表情は恐怖と不安に染まり、どこか自分を責めているようにも見えた。

一体何を考えているんだろうか?

よくはわからないが、このままコイツが悩み続けてもロクな事にはならないだろう。
様々な感情が不安定に揺れている城崎の瞳を、俺はそっと手のひらで覆った。

そして、

「寝ろ」

短く告げた。

今のお前には、休息が必要だ。

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