気付いたら隣に…

□広まりゆく存在
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医務室に帰ってきた文次郎さんと伊作さんに、

「すいませんでした!」

と勢いよく頭を下げられて。
あまりにも突然の出来事に、私はわたわたと慌てる事しか出来なかった。

だって、何のことだかサッパリわからない。

加えて、二人は正座で頭を下げる…いわゆる土下座という姿勢をとっているため、
いたたまれないと言うか申し訳ないと言うか、むしろ謝られている私の方がが恐縮してしまう。

「お、お願いですから、やめてください!」

懇願するように叫び、救いを求めて土井先生を見ると、
彼も少し驚いたような表情で、文次朗さんと伊作さんを見下ろしていた。

「二人とも、顔を上げなさい。素子くんが困っているだろう?」

その言葉にそろりと頭を上げた二人は、窺うように私を見る。
その視線に戸惑いながら、私はおずおずと問いかけた。

「あの、何があったんですか?」

これだけの勢いで謝られた経験は今までにない。
どれだけ大変な事が起きたのかと思って聞けば、食堂で失敗をしてしまった、とのことだった。

私の存在を、他の生徒たちに気付かせてしまった。

そう伊作さんが申し訳なさそうに、文次郎さんは悔しそうに言ったけれど…

「それは、そんなに大変な事なんですか?」

思わず漏れた素直な感想に、文次朗さんが目を見開いた。

だけど、数日後には私は皆さんに紹介してもらえるわけだし、それが少し早くなるだけじゃないの?

キョトンとしてそう尋ねると、文次郎さんは一瞬言葉に詰まり、そして…

「バカタレ!」

「ぴ!?」

…怒鳴られました。

驚き過ぎて変な音が口から漏れたけど、今は誰も気にしていない。
文次朗さんは身を乗り出して、私に詰め寄る勢いでまくし立てた。

「学園長先生が仰っていただろうが! 正体不明のお前を怪しむ奴が出るかもしれんと! お前の存在が知られるという事は、それだけ疑う人間が増えるという事だ!」

疑うだけで済めばいい。
でも、まだ未熟な生徒達は頭から私を曲者だと決めつけるかもしれない。
聞く耳を持たず、強硬手段に出てくる可能性もあり、それは危険な事なのだ…と懇々と言われてしまったけど。

なんでかなぁ、大丈夫な気がしちゃうんだよね。

困った顔でこめかみ辺りをポリポリと掻けば、文次郎さんがひくひくと口元をふるわせている。

「お前…わかってないだろう…」

「はい…多分」

「バカタレィ!!」

うわ〜ん、正直に答えただけなのにっ!

再び怒鳴られて体を小さくさせていると、
苦笑いを浮かべた伊作さんが「まぁまぁ」と文次郎さんを宥めてくれて。
だけど文次朗さんは、まだ怒鳴り足りないようだった。

「素子ちゃん、本当にわかってないの?」

憤慨している文次郎さんの横で、困ったような顔をする伊作さんに、私はどのような顔を向ければ良いのだろう?

う〜ん、と少し考えて、思ったことを口にしてみた。
…また怒鳴られるかもしれない、と思いつつ。

「言われている事は、わかるんですけど…実感が湧かないと言うか、なんとなく大丈夫なんじゃないかな、って思っちゃうんですよね…」

お気楽にも取れる私の発言に、また文次郎さんの顔がひきつった。
思わず身を強ばらせ、怒鳴り声に備えてしまったけれど、
今回は伊作さんがそれを制して、先を促したのだった。

「なんとなく? どうしてそう思うの?」

「文次郎さんも伊作さんも土井先生も、もちろん学園長先生も。ここに来て出会った人達が、信じられないくらい良い人だったから…他の生徒さん達も、悪い人じゃないんじゃないかなって思えて…」

ほら、類は友を呼ぶって言うじゃないですか。

ニコリと笑ってそう言うと、文次朗さんだけじゃなく、
伊作さんにも土井先生にも盛大なため息をつかれてしまい、私は唇を尖らせた。

私だって、何も考えずにお気楽発言をしている訳じゃない。

ちゃんと考えているし、根拠もあるのだけど、
その根拠が『現代』での経験に基づいているから、
説明が出来なくて、少し歯がゆかった。

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