気付いたら隣に…

□孤独な葛藤だ
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全く…なんだというんだ。

先ほどの城崎の顔を思い出し、俺は思わず舌打ちをしていた。

「文次郎、顔が赤いよ?」

「やかましい!」

そんな事、伊作に言われなくてもわかっている。
だが俺には、どうしたら良いかがわからんのだ…。

不意に服を掴まれて、振り返った時に見た城崎は出会った時と同じような表情をしていた。
助けを求めるような、縋りついてくるような、そんな顔だ。

だが、場所は風呂場。
これから入浴しようという時にそんな顔をされても、どうしたら良いのかわからない。
おそらく城崎が心細さを感じているんだろうという事は想像できたが、俺達が一緒にいてやる訳にはいかない。

では何かを言ってやるべきなのか?
だが何と言ってやればいい?

わからずにただ城崎を見ていれば、城崎は大きく息を吸い込んでニコリと微笑み俺を見た。

そして「何でもない」と口にしたのだ。

その笑顔が歪んでいた訳じゃない。
声に震えやためらいもない。

だが、何故か分かってしまった。
無理をしている、と。

そう思ってしまったら、そのまま城崎に背を向けることは出来ず、迷った挙句、俺は一言告げていた。

「また、後で」と。

柄じゃない。

そんな事は、誰に言われずとも自分が一番わかっている。
だが、城崎を見ていると、そうしたくなってしまうのだ。

なんなんだ、これは。

「伊作」

くのたま長屋の脱衣所で、城崎の入浴が終わるのを待つ予定だったが、
俺は戸に手を掛け、背中越しに伊作に言った。

「走ってくる。すぐに戻る」

「え? ちょっ、文次郎!?」

こんなもやもやとしたまま、じっとなんてしていられるか!!

「ギンギーン!!」

罠を避けてくのたま長屋の敷地を超え、裏山に入り木々の枝を飛んでいく。

そうしていると自分らしくない自分に対する戸惑いが消え、意識は城崎へと向かった。

俺が忍術学園に連れてきた城崎。

秘密が多く、どこか頼りない雰囲気を漂わせる城崎に対して、
俺は保護者のような気になっているのかもしれない。
生物委員会委員長代理の竹谷がよく言っているではないか。

「一旦生き物を飼ったら、最後まで面倒を見るのは人間として当然」だと。

そうか、だからか。
俺は責任を感じているから、城崎の面倒をみようとしてしまうんだ。

そう結論を出してスッキリとした俺は、くのたま長屋へと戻った。

「おかえり。…文次郎」

脱衣場に入ると、薬の準備をしていた伊作が顔を上げ、俺の姿を見ると呆れたような表情を浮かべた。

「なんだ?」

「もう少し時間があると思うから…汗、流して来たら?」

そんなに汚れたままで、素子ちゃんを運ぶつもり?

そう言われて自分を見るが、伊作の言う事がいまいちよくわからない。

「そんなに汚れてるか?」

「うん…お風呂上りの素子ちゃんが汚れそうなくらいには、ね」

困ったような顔で言われると、俺が悪いような気がしてくるから不思議なものだ。
正直、俺にはよくわからんが、客観的に見ている伊作が言うのだから、そうなんだろう。

俺は再び脱衣所を後にし、忍たま長屋に戻った。
井戸でざっと水を浴び、自室で装束を変えて、くのたま長屋へと戻る。

気付けば、走りに出てから結構な時間が経っている。
いい加減、城崎の風呂も終わっているのではないかと思ったが、脱衣場に戻った俺が見たのは先ほどと変わらない伊作の姿だった。

「まだ風呂から上がらないのか?」

「うん、そろそろだとは思うけどね。笑い声が聞こえてきたから、話に夢中になっちゃったんじゃない?」

初対面で、あれほど緊張していたのに、話に夢中になれるものなのか。
女っていうのは、強いのか弱いのか、よくわからんな。

そんなことを考えていると、風呂場から山本シナ先生の声が響き、俺たちは呼ばれた。

だが、俺にとっては…ここからが、大変だったのだ。

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