気付いたら隣に…

□勘ちがいで激怒
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混ざってしまった薬草を再び分別して、それが一段落した頃。

「素子ちゃん、お昼ご飯持ってきたよ」

そう言って、お盆を持った伊作さんと文次郎さんが医務室に入ってきた。
真剣に薬草と向き合って、強張っていた顔から力が抜ける。
ほう、と息を吐いた私は、二人を見上げて微笑んだ。

「ありがとうございます。もうそんな時間だったんですね」

集中していたせいか、時間が経つのが早かったなぁ。

う〜ん、と伸びをして、固まってしまった体を少しほぐす。
そして周囲に散らばる薬草を片付けようとしたら、それより早くふわりと体を持ち上げられていた。

「…文次郎さん?」

「そこを片付けるより、お前がこっちに来た方が早いだろ」

散らばった薬草を混ぜないように、そうっとその中から連れ出され、
少し離れた場所に下ろされると、そこでは昼食のお盆と、お茶を淹れた伊作さんが笑顔で待ってくれていた。

上げ膳据え膳って、こういう事を言うのだろうか…?

もう傷口は塞がってきているし、多少なら歩いても平気…なはずなのに。
過保護な二人に苦笑しながら昼食を受け取ると、文次郎さんがそのお盆を覗き込んだ。

「本当にこれだけで足りるのか?」

そこに乗っているのは、頼んで半量に減らして貰った食事。
私は微笑んで頷いた。

「動かないから、お腹もあんまり空かないんです」

しかもここの食事は、毎日動き回っている育ち盛りの男の子を基準に作られている。
基本的に寝たきりな私が、同量の食事をしてもエネルギーの消費が追いつく訳がない。

「いただきます」と手を合わせてから箸を持つと、文次郎さんが「そういうもんか…」と呟いた。

「でも、食堂のおばちゃんが気にしてたよ? もしかしたら口に合わなかったのかも、って」

伊作さんの言葉に驚いて目を見開くと、私は慌てて手を振った。

「ち、違います! すごく美味しいです! こんなに優しい食事が毎日食べられるなんて、本当に幸せだと思ったくらいで…」

そう、ここで出される食事は美味しいだけじゃなくて優しいのだ。
味付けもだけど、食材も、下ごしらえも、栄養バランスも。
至る所に作った人の愛が感じられるような、そんなお料理なのに。

それが口に合わない、なんてことがある訳がない。

申し訳なさにワタワタと慌てる私に、伊作さんが微笑って言った。

「大丈夫。そんなことはないと思います、ってちゃんと言っておいたよ」

いつも美味しそうに食べてるからね。

そう言ってくれた伊作さんにホッと胸をなでおろし、私は再び食事を続けた。
今日のお昼は生姜焼きだ。
ご飯との相性が抜群で、箸も進む。

「でも食堂に行けるようになったら、直接おばちゃんに、言って、あげ、た、方が…」

ん?

何故か、不自然に途切れた伊作さんの声。
不思議に思って顔を上げると、その顔は赤く染まっていた。
口元を押さえ、私と目が合うと慌てて逸らすその様子に、私の動きもピタリと止まる。

何があったんだろう?

答えを求めて文次郎さんを見上げると、彼もまた不思議そうな顔で伊作さんを見ていた。

「…伊作?」

どうしたんだ、と声を掛ける文次郎さんに、伊作さんの顔は更に赤く染まったようだった。

文次郎さんは私を見て、目で何かを問い掛けてきたけれど、私にも何が何だかわからない。
パチパチと瞬きを返して、揃って伊作さんへと視線を向けた。

「あ〜…文次郎」

「なんだ?」

とても言いにくそうに声を出す伊作さんに、キョトンとした表情を向ける文次郎さん。
私は、ただ二人のやり取りを眺めていた。

「……会ったばかり、とかさ…そんな事を言うつもりは、ないよ。うん…そんなの関係ないと思うし…」

「お、おう…」

まるで文次郎さんの頭の上に、はてなマークが見えるみたいだ。
そんな事を考えながら、私も伊作さんに目を向けた。
『会ったばかり』という事は、私が何か関係しているんだろうか?

「でも…そういうのは……人目につかないようにした方が、いいと思う、よ?」

ちらり、と伊作さんが私を見た。
その視線は私の目から、やや下にズレていて…。

その位置で『ある事』を思い出した私は、反射的に首元を押さえていた。

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