気付いたら隣に…

□落ち着いて雑談
1ページ/4ページ

い、居心地悪い…。

中庭の大きな石に座って、私は体を縮こまらせた。

色とりどりの忍者服を着た少年達に囲まれて。
その視線のほとんどがこちらを向いてるせいで、どんな顔をすれば良いのかすら分からない。

でも…仕方がない、よね。

さっきまで文次郎さんと鉢屋くんが喧嘩をしていたのだから、人が集まっているのは当然だし。
しかもそこに、私のような見知らぬ女が乱入したとなれば、注目を浴びてしまうのも無理もない。

だけど。

分からないのは、どうして私達がここに留まっているのか、ということだった。

私の存在は、あんまり知られない方が良いんじゃなかったっけ?
そう言われてもなかなか理解しない私に対して、文次郎さんは「バカタレ!」って怒鳴った…はずなのに。

一度は医務室へ帰ろうとした文次郎さんも、態度を変えて今は平然と隣に立っている。
目の前では、伊作さんが私の足の包帯をほどき始めていた。

い、いいのかな…?

周囲の視線が痛いけど、それを遮ってくれるような物もなくて。
身の置き所のなさにそわそわとしてしまい、文次郎さんに掴まる手にもついつい力を込めてしまう。

そんな私に気付いたのだろうか?

背中に温もりを感じて顔を上げると、文次郎さんが気遣うように私を覗き込んでいた。

「大丈夫か?」

文次郎さんは、私が落ち着かないのは石の上に座っているからだと思ったのか、
私の背中にそっと手を添えて、体を支えてくれていた。

その表情に、背の温もりに。

ざわざわとしていた心が凪いでいくのを感じて、思わずほぅ、と息が漏れた。

「大丈夫、です」

文次郎さんの腕に少しだけ体を預けて微笑むと、彼も安心したように笑ってくれるから。

今はこの腕に甘えても良いだろうか?

本当は、石の座り心地は悪くない。
緩やかに窪んでいるこの石は、むしろ安定感があるくらいなんだけど。

見知らぬ場所で、見知らぬ人たちに囲まれて、その視線に耐えられるほど、私は強くないようだから。

顔を上げるとたくさんの瞳が視界に入り、少しでもその視線を感じたくなくて俯くと、
背中で触れるだけだった文次郎さんの腕に、一瞬だけ力が込められた。

その一瞬は、まるで横から抱き寄せられたみたいに思われて。
驚いて思わず顔を上げると、想像以上に文次郎さんの顔が近くにあってドキリとした。

頬が熱くなったような気がするけれど、文次郎さんには気付かれなかったようで。
彼は私の耳元に口を寄せ、そっと囁いた。

「下を向くな。堂々としていろ」

後ろめたいことは何もない。
恥じるように、俯く理由などどこにもない。

力強いその言葉と、
迷いのない眼差しと、
温かい背中の腕に支えられて。

私はこくんと頷いた。

そして深呼吸を一つ。

思いきって顔を上げ、私は周囲を見渡した。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ