気付いたら隣に…

□意識の内側は
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じりじりとした胸の痛みと共に、息をするのも苦しいような圧迫感に襲われた。

そういえばこの数日、今までにない体の不調をよく感じる。
伊作に相談しようと思いつつ、つい後回しにしてしまっていたが。

実は悪い病気なんじゃないかと思った俺は、ほんの少しだけ不安になった。

目の前には、楽しそうに微笑みを交わす城崎と鉢屋。
『和解した』と言った城崎の言葉は嘘や強がりではなかったらしく、二人は楽しそうだった。

その事実を認識した途端、まるで異物を飲み込んだかのように胸が苦しく痛み出して、俺は不安に駆られたのだ。

だが城崎の右手は俺の装束を掴んだままで、俺の左手も城崎の背中に添えたままだ。
ヘタに動けば気付かれるだろうし、城崎を支えている今、体調の異変を悟られる訳にはいかない。

そう考え、動いてしまわぬように気をつけていたら、
触れている左手からじんわりと温もり伝わってきて、ほんの少しだけ痛みが治まったような気がした。

だが。

二人にしか分からぬ何かがあるのか、たしなめていたはず鉢屋と謝っていたはずの城崎が顔を見合せてくすくすと笑い、そして。

「約束だぞ?」

そう言った鉢屋が城崎の頭に手を置いた瞬間、俺は反射的に声を上げていた。

「おい、鉢屋…」

己から出た声が、随分と低くて驚いた。

これはなんだ?
俺は何を言おうとして鉢屋に呼びかけた?

わからない。
ただ…鉢屋を止めたかった。

それは何故だ?

それは…

「さっきから随分と気安いが、城崎は俺と同じ年…つまり、お前の年上だぞ。年上を相手にその態度はないだろう」

そうだ。
年上に対する礼儀を欠いている鉢屋の態度に、腹が立つんだ。

そう考えて鉢屋を睨めば、隣の城崎が申し訳なさそうに俺を見上げた。

「あの、いいんです。年上でも何も知らないし、出来ないし…」

そういう問題じゃないだろう。

確かに城崎は忍者について何も知らないし、怪我で身動きが取れない今、出来ない事も多いかもしれない。
だが、それでも城崎が決して甘えない事を、俺は知っていた。

俺や伊作に世話をされている現状を当たり前だとは思わずに、常に感謝と申し訳なさを感じている事が伝わってくる。
だから、俺と伊作は城崎の世話をする事を手間だとは思わず、少しでも楽に過ごして欲しいと願ってしまうんだ。

まだ出会ってから日は浅いが、城崎素子という人間がどんな人物なのか、俺はある程度理解出来たと思っている。

決して年下に軽んじられて良い存在ではない。

ギロリと睨みつければ、意外にも鉢屋は素直に頭を下げた。

「すいませんでした。てっきり同じか、年下だと思ったもので」

「あの、本当に…気にしないで下さい…」

恐縮するように、鉢屋に言う城崎にほんの少しだけイラついた。

鉢屋相手に気を遣ってやる必要なんかないんだ。
そもそも酷い目にあわされたばかりだというのに、何故そんなに仲が良さそうに振る舞えるんだ。

そんな俺の考えが伝わったのか、鉢屋は態度を改めた。
ちゃんとした敬語を使い、態度も一歩引いている。
だが…それに否やを唱えたのは、意外にも城崎自身だった。

「文次郎さん、お願いですっ! 私、鉢屋くんに敬語で話されるの、嫌です…」

何故だっ!?

装束を掴んでいた城崎の手は、いつの間にか俺の腕に回されていて、
全身を使ってしがみつかれ、その感触と必死な表情に、少なからず狼狽える俺がいた。

「しかしだな…」

それでは下級生にも示しがつかん。
年上の城崎が丁寧な言葉遣いをしているというのに、五年の鉢屋が馴れ馴れしく接するなど。

と、口にしようとしたのだが、それよりも早く鉢屋が口を開き…。

そして俺は思い知った。

鉢屋には態度を改めるつもりなど、全くなかったのだという事を。

「あ! じゃあ、素子さんも敬語をやめたらどうですか?」

してやったり、という笑顔を浮かべる鉢屋を前に、思わず眉間に皺が寄る。

そして同意するように顔を輝かせた城崎の顔が視界に入り、思わず奥歯を噛みしめた。

鉢屋の狙いは、これだったのだ。

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