◆Novel
□ermutigen
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私が桐条の家に戻ると、当主を失ったグループ、家の中は騒然としていた。
お父様が亡くなったという感傷にも浸れず、無情にも時間だけは過ぎ去っていく。
泣く事すらも許されない毎日に、私の心は崩れてしまいそうな程脆くなっていった。
そんな中、皮肉な事に影時間だけが安らぎをもたらしてくれる。
何もかもが止まってしまうこの時間が、ずっと続けば嫌な事も忘れられそうなのに…。
あと少しで影時間がやってくる。
ベッドの上で目を閉じ、その時の到来を待ち受けていると、
―ピリリリリッ
携帯電話がけたたましくなり響き、夢から現実に引き戻されたような感覚に襲われた。
はっとして慌てて携帯を見ると、ディスプレイには『明彦』の名前が浮かぶ。
「もしもし…?」
『美鶴、今良いか?』
「ああ…」
久し振りに聞く明彦の声は、何だか心地良い。
『そっちは大丈夫か?無理とかしてないか?』
「……」
優しく響く明彦の声が、崩れてしまいそうな私の心に、潤いをもたらしてくれる感じがした。
それが形となって、思わず目から溢れ出てくる。
「…っ!」
『どうしたんだ、美鶴。…泣いているのか?』
私を心配している言葉であっても、明彦の『声』だけでとても安心出来る。
そんな明彦の声を直接聞きたい。
私の心を穏やかにしてくれるこの声を…。
「明彦…、会いたい…。今すぐ会いたい…!」
叶うはずなんてないのに、そう言わずにはいられない程、明彦が恋しかった。
どうしても…。