◆Novel

□aufdringlich
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「真田先輩」

誰もいないラウンジでボクシンググローブの手入れをしていた明彦は、突然背後からかけられた声に振り返った。
そこには照れくさそうに笑みを浮かべているゆかりが立っている。

「どうした、岳羽?」
「あの…、お願いがあるんですけど…」
「?何だ?」

ゆかりから声をかけられるのは珍しいなと、そんな事をぼんやりと考えながら、明彦は手を止めて、改めて彼女の方に向き直った。

「明日、長鳴神社のお祭りで花火大会があるんですけど、一緒に…行ってもらえませんか?」
「はっ!?どうして俺が…?俺でなくとも、山岸や他の友人だっているだろ?」
「それが、全員用事があるって付き合ってもらえなくて…。私、どうしても見に行きたいんです。だから、お願いします!」

そう言って、ゆかりは深々と頭を下げる。
どうしたらいいのかと、明彦は困り果てしばらく考え込んでいたが、こんなに行きたそうにしているゆかりを見て断るのも可哀想な気がした。
だから、同じ寮の先輩という立場として、保護者のような形で付き合うと、明彦は了承の旨をゆかりに伝える。

「本当に!?じゃあ明日、18時に神社で待ち合わせという事でいいですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」

ゆかりは嬉しそうに踵を返して、足取りも軽やかに自室へと戻っていった。
そんな様子を見て、明彦は了承をしたもののどこか乗り気ではなかった。
花火大会が嫌というわけではなく、どちらかというと、ゆかりと一緒に行く事に気が進まないのだ。
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