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□当たり前
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いつの間に、背中の温もりが当たり前になった。

少し前まで、当然のように冷たかった背中。

それが、いつのまに、暖かいのが当たり前になった。

その温もりがないだけで、酷く心細く感じるようになった。

いい年した大人が心細いってなんだよ、と思ったが。

どうにもそうなのだから仕方ない。

何もかも全て、俺に温もりというものを与えたあいつが悪い。

一人の部屋が寂しいのも。

一人の食事が上手くないのも。

背中の温もりに安心するようになったのも。

それを当たり前だと感じるようになったのも。








「お前のせいだぞ」
「はい?」

新八が出してくれたプリンを食べながら考えていた。
だってどう考えても新八が悪い。
お前が俺にいろんなものを与えた所為だ。
スプーンでさしながら言うと、新八は心底不思議そうな顔で首を傾げる。

「なにがですか?」
「何もかもだ」

はぁ?とまた不思議そうにされた。
だってそうだ。
こんな三十路目前が、一人が寂しいとか。
なんだそれ、気持ち悪い。
俺気持ち悪い。

「僕何かしましたっけ?」
「色々だ。新八の所為で銀さん色々気持ち悪い」
「??」

意味分からないって顔をしている。
そうだろうな。
お前はそうするつもりはなかったんだろうし。
でもな、俺に家族を教えてくれて。
俺に家族をくれて。
心配されるくすぐったさとか。
傍にいてくれる暖かさとか。
誰かを心配する気持ちとか。
何もかもお前が俺に与えたもんだ。
お陰でどうだコレ。
銀さん三十路目前にして一人じゃ生きていけないわっって奴だぞ。
まずいだろコレ。

「ほんとに何ですか?僕なんで怒られてんですか?」
「うるせぇーこっちの話しだコノヤロー」
「はぁ?」

だからといっておっさんはな、素直に言える生き物じゃないんだ。
お前がいてくれてよかったよ、とか。
お前の所為で寂しがりやになっちまったよ、とか。
これから先も俺の傍にいろよコノヤロー、とか。
ンなもんお前、そう簡単に言えるわけねーだろうが。

「??よくわかんないですけど、原チャ出してくださいね、今日セールあるんで」
「おー…」

甘いオヤツが買ってもらえるかもしれないってことより、原チャの二人乗りが楽しみって…。
俺は一体どうしたんでしょうか。
もう駄目だ、俺はもう駄目だ。
こいつがいなくなったほんと駄目だ。

「…新八よぉ」
「はい?」
「…こ」
「こ?」
「これからも、万事屋にいろよお前」

あれコレなんかプロポーズっぽくね?あれ?
新八はきょとんとした後に、しょうがないですねぇ、と笑った。
あんだよちくしょうー。なにがしょうがねーんだよコノヤロー。

「あんた寂しがりですもんね」
「…ちげーし」
「いいえー、銀さんは寂しがりです。しょうがないから、僕も神楽ちゃんも定春もずっと一緒にいてあげますよ」

ふん、とそっぽを向く。
クスクスと新八が笑った。
うっせー、おっさんは素直になれない生き物なんだよちくしょー。

「さ、スーパー行きましょ。今日はお米がお得なんです。公園よって神楽ちゃんにも手伝ってもらわなきゃ」
「はいはい、行きますかー」
「はいっ」










傍にいるのが当たり前で。

笑いかけてくれるのが当たり前で。

暖かさをくれるのが当たり前で。

こんな当たり前、お前がくれるまでは知らなかった。

これからもお前は、きっと俺の知らない当たり前を与えてくれるんだろうな。

だからずっと、俺の傍にいろよ。

尤も、お前は『そんなの当たり前です!』って笑うんだろうけど。


END


とりあえずなんかアップせねばと書いてみました。

10.5/23

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