・Main(忍卵)・

□狐の初恋
1ページ/1ページ




誰かを愛する事など初めてした狐は、どうしたらいいのかひたすら悩んだ。
思いの伝え方など知らなかった。
好意を伝える言葉の真意など知らなかった。
なんと言えばいいのか、どう接すればいいのか、狐にはわからなかった。

「…雷蔵」
「ん?」

何だい?と彼は優しく笑って狐を見る。
心臓がひとつ大きく動く。

「…雷蔵」
「三郎?」

言葉の意味は知っている。
この気持ちが、一般的にはどういったもので。
それを伝える言葉は知っている。
けれど、そんな文字だけで知った知識で伝えていい言葉なのか。
それがわからない。
だってこんなにも大きな気持ちだ。
ただの二文字で、伝えきれるはずなどないのだ。

「…雷蔵」
「どうしたの、三郎?」

きゅ、と狐の手が彼の服を掴む。
助けてくれ、といったつもりはなかった。
ただ、言葉にしきれない気持ちが、体の中を重くして。
それをどうにかしたかった。
彼ならば、この重みを消してくれると、思った、それだけ。

「…よしよし」

彼は優しく狐の頭を撫でる。
言ってごらん、と優しい声。
一度で足りないのなら、何度でもいってご覧。と。

「僕は何度だっていつだって、ちゃんと君の言葉を聞くよ」

彼は優しく笑って、狐の額に唇を落とした。
かすれた震える声が、彼に届く。

「…ただただ、君の事が、」

好きなんだ。


僕もだよ。
と優しい声は笑顔とともに降ってきた。


おわり


ではまた\(^ω^)/

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ