企画小説

□ある日、悪魔に。
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家から出てきたのは、鳶色の髪と瞳を持つ少年。
端整な顔立ちだったが、俺を見る目つきはとんでもなく悪い。

顔飛ばす、とはこういう表情のことを言うのではないだろうか。

おまけに片手に煙草。
俺の一学年上ってことは、ばりばり未成年のはずなのに。


「見ない顔だな。」


呆然としている俺を見下ろして、遊城十代は口を開いた。
その間にも煙草を咥えて煙を吸っている。


「あ、えっと、今年入ったばかりなんです。」

「ふーん・・・。」


先程までの威勢はどこへ言ったやら、俺は完全にしどろもどろだった。
相手の印象が大分違ったのと、初めて接するタイプであることに、戸惑っていた。

遊城十代はそれきり黙ってしまった。
対する俺も何も言えずにいたが、はっとして抱えていた荷物を差し出す。


「これ・・・なんですけど。」


遊城十代は受け取らなかった。
ただ煙草を燻らせて、俺を見ている。

漫画だったら滝のような汗を流しているに違いない――それくらい、俺は困っていた。

少しして、遊城十代はにやりと笑みを浮かべた。
決して気持ちのいいものじゃない。
悪意たっぷりのやつだ。


「ご苦労さん。ちょっと家で休んでいかないか?」


えっと耳を疑った時には、腕を掴まれていた。
意味深な笑みと鋭い瞳が間近で見える。


「い、いえっ!お手を煩わせるわけにはっ!!!俺ならこの通り元気ですし!」

「そう言うなって。可愛い後輩がせっかく来てくれたんだからさ。」


可愛いなんて言いつつ、先輩の目はまるで笑っていない。

絶対何か企んでる。
俺どうにかされる!!
ああ、全財産である300円を取られたら、明日の昼飯が・・・。


「だっ大丈夫・・・!ほんと大丈夫です!!!」

「・・・・・・俺の好意が受け入れられないと?」


ひいいいいいい!!!!




――そんなこんなで先輩の好意(という名の脅し)に甘え、彼の家に上がることになったのだった――。



聞いてない。
こんな話は聞いてない!!!

遊城十代と向かい合いながら、心の中で俺を送り出した先輩達に訴えた。
入部当初からあった彼らへの忠誠は、この10分間の間に瓦解してしまいそうだった。

せめて一言言ってくれれば、対処の仕様や心の準備が出来たってのに。

でもそういえば、俺にこのことを話している時、周囲の先輩達が妙にぎこちなかったような気がする。
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