企画小説
□恋せよ魔王
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このままでは危ない方向に行きかねないと、親友と弟の行く末を案じたユベルは、覇王に告白することを勧めた。
そうすれば、答えがイエスにしろノーにしろ親友の不審行動に終止符を打つことができる――そういう考えからだった。
しかし、そう一筋縄ではいかないのが現実である。
「ちゃちゃ、っと渡しちゃえばいいじゃない。手紙の一通や二通。」
「そういう問題ではない…。」
盛大な溜息をついて可愛らしい便箋を大切にしまう覇王。
面と向かって告白するのが気恥ずかしい、かと言って携帯メールは扱えない、それじゃあラブレターしかない。
そう言って覇王が七日七晩悩みに悩んでラブレターを書き上げてから、もう三月が経過していた。
その間にも不審行動はエスカレートしていき、毎日毎日、木陰から壁から電柱の影からヨハンを見つめては躊躇う日々を送っている。
やたらきらきらしたオーラを放つヨハンを影から見つめる鎧姿の少年。
そこにはさながら魔王と姫君のような構図ができあがってしまっている。
軽々しい己の発言が、返って彼を「危ない人」に至らしめてしまったことを、ユベルは酷く悔いた。
その後も何か策はないものか、と考えてみたが、結局のところ、残る手段は実行あるのみ――すなわち、覇王の勇気に頼るしかないのだ。
「もうちょっとがんばろうよ・・・。」
何百回目かの失敗に悶々としながらミックス牛乳を自棄飲みする鎧姿の友人を見て、ユベルは憂鬱そうにぼやいた。
かつて覇王とユベルは、アカデミアのワル共を纏め上げる、言わば総番長的な立場にあった。
逆らう者はぶっ飛ばす、文句のある者もぶっ飛ばす。
そんなスローガンを掲げて、彼らは正にアカデミアを裏で操る黒幕として、生徒や教師達に恐れられていた。
(と思っていたのは実は本人達だけで、実際は影で「二大ガキ大将」と呼ばれていた。)
だったはずなのだが、当の覇王はヨハンに恋をした瞬間、一気に穏やかな性質になってしまった。
更にユベルは、今まで知らなかった親友の意外な一面を目にすることになる。
「・・・覇王、何それ。」
「弁当に決まっているだろう。」
すっかりやさぐれた調子で、覇王はぎろりとユベルを睨みつけた。