企画小説
□月夜に踊る
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ところがある夜、偶々所用で眠るのが遅くなった。
用事を済ませたヨハンがようやく床に就こうと寝室に入っていくと、既に十代が待っていた。
待っていたという言い方はおかしいかもしれない。
彼は図々しくも寝床を占領し、掛け布団に包まって円くなっていたのだ。
これには流石のヨハンも面食らってしまった。
普段は眠っているから仕方ないとして、今夜のヨハンは起きて活動していたのだから、一言くらい声をかけてくれてもいいではないか。
それ以前に、人の寝床で熟睡とはどういう了見なのか。
言いたいことは山ほどあったが、眠っている者をたたき起こすわけにもいかない。
ヨハンは苦笑すると、物音を立てないように灯りを消した。
少しは自分の寝る場所を確保できないと困る。
そこでヨハンは、なんとか十代を横にずらそうと試みた。
手をそっと肩にかけた時。
ヨハンの手は強い力で以って掴まれていた。
驚いて十代を確認すると、悪戯っぽく輝く鳶色の瞳がこちらを見つめていた。
「ごめん。起こした?」
「いーや。ずっと起きてたぜ。」
ヨハンの手を掴んだまま、十代は機嫌良さそうに笑っている。
くいくいと手を引っ張られて、彼がしようとしていることがわかり、ヨハンは戸惑ってしまう。
「・・・・・・離してくれよ。」
「なんで。」
「なんでって・・・その・・・今日は、ベッド使っていいからさ。」
じいい、と食い入るように顔を近づけて見つめられ、ヨハンは困って顔を背けた。
最早自分の寝場所を確保しようなどという考えは頭にない。
とにかく手を離して欲しい。
「〜〜〜〜〜〜離せって・・・!」
「今更恥ずかしがってんのかよ?いつも一緒に寝てるじゃないか。」
身を捩って抵抗を試みる恋人の姿を背背笑って、十代は勢いよくヨハンの手を引っ張った。
途端に倒れこんだヨハンは、寝台に顔面をぶつけてしまう直前に十代の手によって方向変換させられる。
丁度向き合う形になって、ヨハンは十代に抱きしめられていた。