企画小説
□一つの林檎に二匹の蛇
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「……十代?」
俺の物思いと懺悔を打ち破ったのは、ヨハンの囁くような小さな声だった。
組み敷かれた状態のまま、ヨハンが不思議そうに首を傾げている。
「あ……悪い。」
ここまで来て焦らすわけにもいかない。俺は意を決して衣服に手をかけ――ようとしたら、腕を掴まれてしまった。
「ほ…本当にする、のか…?」
若干の怯えを含んだ声色で、ヨハンはこちらを見上げてきた。
よく見れば肩が小刻みに震えている。
「……嫌?」
低く尋ねると、怒られると思ったのか、ヨハンの震えが大きくなった。
「嫌…っていうか……良くないと思う。」
「良いとか悪いとかあるのか?」
「だって、本当はいけないことだ!」
背背笑う俺に腹を立てたのか、ヨハンの掌が強く胸板を押し返して来た。
しかし強気な態度も長くは続かず、すぐにしゅんとしたように俯く。
「だって…、」
一瞬だけきゅっと結ばれた唇が、ゆっくりと開く。
「俺達、本当は結ばれちゃいけないんだから。」
その時、俺は、
ああ、やっぱり、と。
やっぱり彼は純粋な存在なのだと、改めて思い知らされる。
容易に禁忌に踏み込める、俺とは違う存在なのだと。
一つ舌打ちして、俺はヨハンの上から退いた。
「じゅ…十代?」
あっさりと踵を返すと、ヨハンの焦ったような声がした。
「やめようぜ、やっぱり。」
背後のヨハンに決して顔を合わせぬように、しかしはっきりとした口調で、言う。
「いけないことだって、思ってるんだろ。」
自分でも何故こんなに冷めた声が溢れてくるのかわからない。
だがこの時、俺は原因不明の苛立ちを感じていた。
ひょっとして断られたから?
――だとしたら、俺も随分性悪だ。
「ま、て!」
歩き始めた俺の腕を、ヨハンが必死に掴まえて来た。
翡翠の瞳が闇夜で輝き、僅かに濡れているのがわかる。
「ご、ごめ…ん。」
「なんで謝る?」
「だって怒ってるじゃないかっ。」
「怒ってない。」
「怒ってるだろ……!」
ヨハンの顔をなるべく見ないようにしながら、俺は殊更大きな溜め息をつく。
自分でも驚くくらい、態度が悪かった。