捧げ物
□仔猫ちゃんと呼ばないで
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ヨハンは知らない。
僕が毎日、君の時間割をチェックしてあげていることを。
教科書ノート参考書(ほとんど新品同然)、全部上下を揃えて入れ直してあげていることを。
ヨハンは知らない。
通勤電車の中、君を狙う痴漢共を、僕が完膚無きまでに叩きのめしてやっていることを。
無防備な君の背後を、僕ががっちりとガードしてあげていることを。
ヨハンは知らない。
授業中、君が居眠りしている時に指された時、僕が身代わりをしてあげていることを。
一度先生にばれて、僕が廊下に立たされたことを。
ヨハンは知らない。
僕が君をこんなにも大切に想っていること。
僕が君に、
「お兄ちゃん」と呼ばれたがっていること。
ヨハンは知らない。
「お兄ちゃんって呼ばれたい」
ユベル・アンデルセン、悩める18歳。
彼が唐突にぼやいた言葉に、一緒に昼ごはんを食べていた友人達は顔を見合わせた。
小鳥の囀りが聞こえる、穏やかな春の午後のことである。
「・・・・・・はい?」
「ヨハンに『お兄ちゃん』って呼ばれたいって言ったんだよ。」
ユベルが面倒気に補足をつけると、困惑気味だった二人組は呆れ顔になった。
金色と鳶色、瞳の色を除けば瓜二つの双子は、何事もなかったかのように自分の昼食に手をつけ始める。
「いきなり何かと思ったらそんなことかよ・・・ユベルにも困ったもんだな、覇王『お兄ちゃん』?」
「やめんか気色悪い。」
親友が真剣に悩んでいると言うのに、この薄情者共――クラスメートの遊城兄弟は、悠々と食事を再開した。
完全に置いてけぼりの状態にされてしまったが、ユベルはめげずに話を続ける。
「僕はね、ヨハンのお世話をたくさんしてあげたんだよ。お兄ちゃんって呼ばれる要素は充分にあると思うんだけど。」
「下心見え見えで世話やかれてもな。」
「引くよな。」
「なんでそんな言い方しかできないの!友達が悩みを打ち明けてるっていうのに!」
「事実を述べたまでだ。」
「そうそう。」
あまりの言い草に、ユベルはよよよ、と泣き崩れたが、遊城兄弟は全く取り合ってはくれない。
絶対零度の寒さを宿した瞳をユベルに向けながら、会話よりも飯の方が大事だと言わんばかりに口を動かし続ける。