捧げ物
□竜の恩返し
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昔、昔、あるところに。
十代という、それはそれは凄まじいどS…いえ、とても善良な若者がおりました。
ある昼下がり、いつものように村へカツアゲ…ではなく山へ薪割りに行きますと、一匹の白い竜が鳥用の罠にかかって苦しんでいました。
珍しく慈悲の心を抱いた十代は、竜を罠から救ってやりました。
無粋な鉄枷から解放された竜は、何度も何度も十代を振り返りながら、山へと帰って行きました。
それから数日経ったある吹雪の夜のこと。
一人の若い娘が十代の家を訪ねて来て、一晩の宿を頼みました。
そして二人で囲炉裏にあたっていると、娘はぽつりぽつりと自分のことを話し始めました。
なんでも彼女には行く宛がなく、嫁としてここに置いて欲しい、というのです。
娘に一目惚れした十代は二つ返事で承諾しました。
こうして、十代と娘は夫婦になりました。
青い髪に翡翠の瞳の、不思議な娘。
名前をヨハンと言いました。
ヨハンはよく働き、良く食べました。
また十代をとても愛しました。
それまで村一番のならず者だった十代ですが、ヨハンの献身的な愛を受け、冷たい顔立ちはだんだんと穏やかになっていきました。
優しい妻と何不自由ない生活を送っていた十代でしたが、たった一つだけ気になることがありました。
それは、ヨハンが機織りの仕事をする時、十代に決して姿を見られたがらないことでした。
「覗いたらどうなるか……わかってんだろうな。」
笑顔で大根を握りつぶすヨハンに、十代は逆らうことが出来ません。
しかしヨハンが織った機は、とても素晴らしいものでした。
七色に輝く美しいそれは、いつしか大変な高値で買取されるようになりました。
こうしてカツアゲではなく、正規の仕事で手に入れたお金で裕福な生活をするようになった二人でしたが、何故かヨハンは病気がちになってしまいました。
心配した十代は、色々調べた結果、ヨハンが弱るのは、必ず機織りの後であることがわかりました。
そこで十代は、こっそりと障子に穴を開け、部屋の中を覗きこんでみました。