短編小説
□君と還った日
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無数の水晶の柱がきらめく。
そこは一筋の光も届かない奈落の空間だったが、水晶達はその表面を反射させ僅かな光を作り出していた。
「ヨハン…ヨハン、可愛いねぇ…」
先程から聞こえてくる声は、呪文のように同じ言葉を紡ぐ。
二つの大きな水晶が直角に交わるところ。そこに二人の少年がいた。
彼らは実によく似た容姿を持っていたが、一人はボンテージを纏い橙の瞳をしている。
先程から言葉を発しているのは、こちらの少年だ。
もう一人は紫と青を基調とした服装、今は固く閉じられている瞳は、翡翠色を呈している。
橙の瞳の少年は、眠り続ける片割れの髪を愛しそうにすく。独特の癖のあるそれは、ゆるやかに青白い頬にかかった。
その様子を粒さに観察した後、橙の瞳の少年はもう一度その髪に手をかけようと手を伸ばす。
「時間だよ。」
二人きりだった空間に新たな声が響いた。
彼らの背後に現れたのは漆黒の精霊。
両性を合わせもつその姿は妖艶な美しさを醸し出している。
「僕らの邪魔をするなと言ったはずだよ。」
橙は鋭い眼光を宿して振り向く。ひどく不機嫌そうだった。
しかし精霊は涼しい顔で橙の怒りを受け流す。
「ボクらは互いの利害が一致する限り、協力し合う…そういう約束をしたじゃないか。
それとも、こうして存在できてるのは誰のおかげか忘れちゃった?」
橙は忌々しげに顔を歪め、小さく舌打ちする。
「で?今度は誰と闘えばいいんだい。また反対勢力の抹殺?」
「いや、もうその必要はない。見てごらん。」
精霊が指差した空間が円く切り取られ、外の風景が映し出される。
そこに映ったのは鳶色の髪を持つ少年だった。
「遊城十代…」
「そう、ボクの愛しい人…」
精霊は愛しげに画面に映る少年に指を這わす。
一方で、橙は端正な顔を歪める。