斉藤君と幸人さん
□第四話
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「あ、起きた」
どのくらい経ったのか。
窓からは夕日が射していた。
「…あの、自分は…その…」
「幸人さんが気絶してから6時間です。お腹空いてるでしょう?」
「はあ…まあ…」
ぐ、ぐぅ
時間感覚と現状把握をした途端、腹の虫は活発になった。
「おにぎり作りました。食べてください」
「あ…ありがとう、ございます…」
「それじゃあ、僕は、これで」
「はぇ…?」
「リビングにいますから」
「え、ちょ、あの、」
「無理しちゃダメですよ。ほら、ベッドにいなさい」
「でも、」
「夕食には呼びますから」
そういって彼は、部屋を出た。
自分一人残して。
もとい、おにぎりという身代わりを残して。
「…美味しい」
塩だけの少し崩れたおにぎり。
ただ黙々と、自分の胃袋が満たされていくのを感じながら、複雑な胸の内を感じながら、食べた。
あんなことされた後なのに、違う、されそうになった後なのに、自分は彼の腕が触れてこないのが、彼の声が聞こえないのが、彼の…彼の顔が見られないのが、寂しかった。
親にも抱かなかったこんな感情。
たった一週間、されど一週間
笑ってしまうようなあっという間さに、自分は笑いさえ起きなかった
「愛しい君…か」
可愛い、と彼はうわ言のように言った。
何度も僕に触れて言った。
永田くんも、言った。
「…笑えない」
ほんと、笑えない。
誰かに興味を抱くなんて、もうないと思ったのに。
親ですら、顔を合わすのでさえ怖いと思ったのに。
自分は、彼に、興味を、抱いた。