斉藤君と幸人さん
□第四話
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「…バカだ」
本当に、バカだ。
何て事をしてしまったんだ。
幸人さんは引きこもりで、人が苦手で、ノーマルなのに。
それでいて弱いのに。
「…分かってるつもりだったのに」
抑えられなかった。
雑誌を見たときのあの焦った表情と、紅潮した顔を見てしまったら、もう、何も、考えられなかった。
欲望のまま、感情のままに、彼の下半身に触れた。
強ばった表情が何とも言えない。
スゴく可愛くて愛しくてそれでいて…淫らだった。
「妄想が現実にはならないよ…」
リビングのソファには、彼の匂いが強く染み付いている。
自分のこの変態的な性癖に、今この瞬間、嫌気がさした。
「ほんとに…好きなんです…幸人さあん…」
過呼吸を起こして痙攣を引き起こした引きこもり。
人は彼をそんな風に見ていただろう。
ただ僕は我慢出来なかった。
そのまま見捨てられなかった。
呼吸が整ってきたときの彼の涙でうるんだ目と上下する胸は何とも言えない興奮を僕に起こした。
「…一目惚れなんです…幸人さんが…大好きなんです…」
ソファに埋もれ呟いてみる。
料理の支度をしなきゃ。
今日は何を作ろう。
頭では思うのに、体が離れない。
この匂いが、大好きだ。
「幸人さあん…」
許してもらえるだろうか。
少なくともこちらが話を切り出し気まずくなるより、あちらから切り出すまでは何も触れない方がいいのかも知れない。
「…嫌われては、ない」
確信はない。
ただ自信はあった。
何より僕が彼の部屋を出ていこうとした時、彼は切なげな表情をした。
寂しそうな、甘えたような表情。
「…シチューにしよう」
季節的には合わないけれど、彼の好きな食べ物だから。
少しは彼の気持ちも落ち着くかもしれない。
「(もし嫌われたとしても、少しは猶予期間ができるかもしれない)」
だから、それまでは―
「(嫌わないでいて、欲しい…)」
そして、いつか堂々と、あなたが好きだと伝えられたら…