御話 短創作

□青い春
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青空が眩しい九月の昼下がり。
僕はその日、恋をした。








よく似合った青色のシャツに黒いジーンズ。

本当に楽しそうに話す姿が印象的だった。

目が奪われるってこういうことなのかな。

心臓の鼓動が痛い。







「はぁ〜…」


遠足の前日でも熟睡できた僕なのに、このところ眠れない。

名前は何ていうのだろう。

年は?

誕生日は?

住所は?

考えると止まらなかった。

僕は少しストーカーの性質があるらしい。


「拓海くん、顔が怖いよ。接客業には向いてない顔してる」

「…え、」

「青いシャツの彼が忘れられない?」

「…はい」


立花先輩は僕のバイト先の先輩で、本人曰く真性ゲイらしい。

男のゴツい恋人がいるとか男と三角関係になってるとかとにかく噂が絶えない人。


「いつも3時頃にあの店のあそこの日当たりのいい席に座っててぼーっとキャラメルマキアート飲んでるんです…」

「うわー拓海くんそれはもう一般人の域を越えてるよ。そこまでにしないとほんとにストーカーとして通報されちゃうからねー」


やっぱりストーカー気質…


「どうすれば近付けますかね…」

「そんなにお近づきになりたいの?」

「(こくん)」


これは受験でも悩んだことのない僕にしては大きな悩み。

そしたらにこーって、それはもう満面の笑みを浮かべて立花先輩は僕の頭を撫でた。

それから、やっぱり満面の笑みでどこかに電話をかけた。


「もしもし翔くん?」


漏れ聞こえる低い声。


「今どこ?」


あ…青いシャツの人だ!!!

やっぱりキャラメルマキアート持ってる。


「あ、喫茶店?」


あれ、誰かと電話してる?


「キャラメルマキアート飲んでるんだ?」


すごく楽しそうな顔してる。

あの日と同じ顔。


「―だから、電話、ちょっと変わるから」


あ…照れた、


「拓海くん」

「…はい?」

「はい、電話」

「え?」

「ほら」


渡されるまま、そのまま耳をくっつけた。


「もしもし…」

『こんにちは、青いシャツの人だよ』


…先輩、胸が張り裂けそうです。


『そのまま、喫茶店、見てて』

「はい…?」


低い染み渡るような声。

目線の先には、手を振る青いシャツの人。


『見えてるかな』

「…はい」

『よかった』

「……」

『どうかした?』

「……」


なんで、どうして、

名前とか、年とか、聞かなきゃならないのに、何をとち狂ったか、僕は、


「好きです」

『…え?』

「拓海くんそれは直球過ぎ」


告白、した。


『…ありがとう』


笑いを含んだ優しい声。

ああどうしよう。


「好き…なんです」


見られない。

視線を反らしたその先には、立花先輩。

にこにこの笑顔が痛くて、ぎゅっと目を閉じた。


『知ってるよ。いつも僕のこと見てるだろ』

「…はい」

『気付いてた』

「…いつから」

『随分前。見られてるなって分かってて、あの席にいた』

「…誤解かもしれないとか、」

『思わなかったよ』

「……」

『あんまりにも見てくるから、そのうち、』


電話が切れた。


「え?」

「そのうち、今度は僕が、君を見てた」

ガバって。

ガシって。

それはもう強い力で後ろから頭抱えられて何がなんだか。


「!!!!????」

「僕のこと、好きなんでしょ?」


真後ろで、よく似合った青色のシャツに黒いジーンズ。

本当に嬉しそうに笑いながら僕を抱きしめる彼がいた。


「好きなんでしょ?」


鼓動が痛い。

外に溢れて止まらない。


「…好きです」

「じゃあお付き合い、よろしく」

「…え?」

「翔くんいらっしゃい。うちの拓海くんいじめないで。だいぶストーカー気質あるけどいい子なんだから」

「先輩…?」

「分かってるさ。分かってるからいじめたくなる。今まで見てるだけだった分ちょっかいくらいかけさせてくれたっていいだろが」

「あの…?」


青いシャツの人は先輩と本当に楽しそうに喋ってた。


「翔くんは僕の友達、ね」

「先輩の友達?」

「やましいことは何もないからな」

「やましいこと…」


考えなかったわけではないんだけど、改めて言われると不思議な気持ち。


「拓海くん、だっけ」


きゅうって。

心臓が小さくなった感じ。

締め付けられるような、嫌じゃない、けど、苦しい痛みが、僕を襲う。


「…はい」

「改めて、僕と付き合って」


キャラメルマキアート並の甘さを含んだ笑顔がひとつ、僕を見た。


「邪魔者は早々に退散するね。翔くん、貸し一だから」

「さっさと行け」


突然の出会いに突然の恋。

そして僕は、初めて見たあの日、この青色のシャツに黒いジーンズの彼を好きになった。


「(…あ、)」


誰かが言ってた。

運命は自分で作るものだと。

それじゃあ僕は、今日のこの時を運命にしようじゃないか。


「拓海くん?」

「…お願い、します…」


青いシャツの人が、僕の運命の人だと、勝手に考えてもいいよ、ね?

自然となる乙女思考に脳内がピンク色。

好きになるって、気持ちいい…。

遅すぎる初めての恋に、僕はすぐに虜になった。


「じゃあ付き合い始めにキャラメルマキアート奢ってあげる」

「…その前に、名前、教えてください」

「名前?」

「分からないんです」

「青いシャツの人でいいよ」

「…性格、悪いですよ」

「ごめんごめん。…榊翔太っていいます」











青空が眩しい九月の昼下がり。

僕はその日、よく似合う青色のシャツの彼と、恋に落ち、結ばれた。



fin.

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