斉藤君と幸人さん

□第九話
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彼は…斉藤くんは忙しい人だ。


「すみません幸人さん、急に仕事入っちゃって…。今日の分、絶対償います」

「や、あの、べ、別に…忙しいなら、しょうがない、から、その…あ、謝らないで、ください…」


自分は元々外に出るのが苦手だから出かける予定がなくなったことはあまり気にならない。

どちらかといえばこうやってやたら申し訳なさそうにされると悪いことをしたような気になってしまう。


「じゃあ…行ってきます」

「あ、いって、らっしゃい」


いつもなら女性がクラリとするような笑顔で笑って、そのままキスをしてくる。

それがないということは相当心ここにあらずな状態なのではないのか。


「………」


自分の考えてることが嫌になった。

自分は男で、しかもいい年だ。


「………」


ああどうしよう。

段々鬱になってきた。

泣きたくないのに涙が出る。

ここが玄関だとかそんなことどうでもよくなって、そのまま倒れ込む。


「ぅ…うぐ、うぇ…」


何故自分を放っておくのか。

大紀は自分を好きだと言ったのに。

仕事の方が大事なのだろうか。

そりゃあそうだ。

こんないい年してなんの取り柄も権力も金もない引きこもり男より自分の結果が顕著にでる仕事の方がいいに決まってる。


「うぅ…ずっ、はあ、ううー…」


苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい

自分を見て。

自分を見て。

自分を見て。


「う゛ぅ、あ゛、あああー…!!」
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