御話 短創作

□猫とランドセルとパソコンと 第一話
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1.お願い


「おじさん」

「てめえ千秋。何年俺のことおじさん呼ばわりするつもりだ。あ?」

「ごめんなさい明彦さん」

「…分かったなら、いいんだ」


あれから5年―

猫は孔雀と名付けられでかくなった。

俺は遂に三十路という大きな壁を目前にしていた。

なのに相変わらず昇進しないしいい相手には巡り会えていない。

出会いといったらこの小僧しかない。

この5年の間に、いつの間にか俺の住むアパートを見つけ、度々猫に会いにと家に通っている。

小学生だったコイツもいつの間にか高校生だ。


「おじさん」

「…………」

「明彦さん」

「なんだ」

「僕のお願い聞いて」

「またか…」


コイツは"お願い"と称して理不尽な要求ばかりしてくる。

先週はいきなり車で迎えに来いと電話がかかってきた。

一昨日は泊めてくれと家に来て昨日まで泊まっていた。

小さいことなら毎日だ。

…嫌じゃないから聞いてやるんだけれど。

世話することは好きだから。

息子みたいなもんだし。

親も知らないし家も知らないけど。


「ねえ、お願い、聞いて」

「何だよ…そのでかい荷物が関係あるのか?」

「うん。これから僕をここに住ませて」

「…嫌だ」

「どうして」

「だいたいお前学校があるだろ」

「ここからのが近いよ」

「…親がいるだろ」

「離婚した」

「…すまん」

「いいよ別に。ねえいいでしょ」

「ダメだ」

「どうして」

「どうしても」


こういうところはまだまだ子供だと思う。

けれどどうにもならないことたし。

第一ここはこいつの逃げ場とかそういうんじゃない。

ここは俺の家だ。


「…分かったよ」

「そうか」


千秋にしては諦めが早い。

気味が悪いな…


「じゃあおじさんの了解なしにここに住むよ」


やっぱり…


「…何の解決にもなってないだろ?つかおじさんじゃねえ」

「…明彦さんは、僕が嫌い?」


まただ、と思った。

千秋は時々やけに悲しい目をする。

そんな目をするものだから、俺は強くは叱れない。

俺も大概お人好しだ。


「…好きにしろ。けど家賃半分出せよ」

「僕学生」

「バイトしてるだろが。文句があるなら帰れ」

「お願いします」


コイツが頭を下げるってことは、それだけ必死なんだろう。






素直じゃなくて可愛くない。

鉄仮面で口が達者。

そんな子供が、今日から同居人になった。




2.に続く

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