御話 短創作

□猫とランドセルとパソコンと 第二話
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2.好き


千秋が家に住む。

それは別に今更文句はない。

けど心配事は山ほどある。

離婚したとはいえ片親がいるのだ。

それなのに千秋は俺の家に住む。

大丈夫なのだろうか。

まだ一度も親に会ったことがない。

何も言わないのだろうか。


「千秋」

「なあに」

「その…お前、片親は…いいのか?」

「別に。…あっちにとっても、僕がいない方がいいみたいだしね」

「そんなことあるわけねえ」

「あるところはあるんだよ、おじさん」


千秋は変わった奴だ。

親なんかよりも俺を選ぶ。

…嫌な気はしないのだが。


「…明彦さん」

「…なんだ」

「大好き」


時は止まり、風だけが吹き抜ける。

どこかで考えていた節があったのかもしれない。

その時の千秋は、震えていた。


「千秋、」

「好き」

「千秋、聞け」

「好きだよ…明彦さん」


片親がいて、でもこいつには俺が必要で、
ああもういろいろどうでもよくなってきた。

胸を塞ぐ心配事はどこへやら、気付くと俺は千秋の頭を撫でていた。


「…いつからだ」

「おじさんが猫もらってくれたとき。狙ってたの気づかなかった?」

「わかんねえよ。つかお前、あの時小学生だろが」

「小学生バカにしないでよ。もう人間出来上がってんだよ」

「バカにはしてねえけど…」


千秋の目が、小さく笑った。


「僕ね、人生で初めてヌいたの、明彦さんだよ」

「…人をオカズにするな」

「孔雀になりたいって、何度も思ってたら、夢でなれた。夢の中の明彦さん、孔雀になった僕のお腹を何度も撫でてくれるんだ…。耳も触ってくれて、僕、どうにかなりそうだった…。起きたら完勃ち。ビックリしたけど…気持ちよかった」


うっとりと、何かを待つような瞳。

コイツ、こんなに色気あったか…?


「…なんで僕がここに来るか知ってる?」

「知らねえよ…」

「明彦さんの匂い、安心するんだ…。明彦さんに会いたくて、ここに来るんだよ」


甘えた口調。

頭を撫でる度気持ちよさそうに細める瞳。

…猫の孔雀でさえこんな猫みたいな表情しねえよ。


「…千秋」

「ん?」

「お前は俺とどうなりたい」

「…できるなら、明彦さんとずっと一緒にいられるようになりたい」


父さん母さん、孫は兄ちゃんにでも期待してくれ。


「お前のなりたい姿にしてやるよ」

「明彦さん…?」

「孔雀みたいに腹出して寝転がりな。たくさん撫でてやる。キスもしてやろうか」

「っ…。本気?僕、そんなことされたら…」


指先が、声が震えてる。

これはこれでなかなか…


「そそられる」


なあ千秋。

俺はな、お前のわがままを聞くだけの、ただのくたびれたサラリーマンじゃねえよ?

こうやって"男"にだってなるんだ。
覚えとけ。





3.に続く

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