斉藤君と幸人さん
□第十七話
1ページ/6ページ
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない様子。
けれどソレは突然起こった。
『すいません幸人さん、今日帰れそうにありません』
「…はい?」
残業はよくあることだった。
なんたって大手だし…
けど何時になっても帰ってこないことはなかった。
「あの…残業、ですか…?」
『まあ…そんなとこです』
このところどうも斉藤くんの様子がおかしかった。
残業にしては多すぎる。
それによく女の人から電話がかかってくる。
本当は疑った。
けれど口にすることは出来なかった。
嫌われたくなかったから。
「…分かりました」
『ちゃんと窓閉めてくださいね』
「…はい」
『…幸人さん』
優しい声。
思わず泣きそうになったけれど、堪えた。
鼻の奥が痛い。
「ぁい…」
『大好きですよ』
電話が切れた後、堤防が決壊したかのように泣いた。
斉藤くんに会ってから自分はよく泣くようになった気がする。
泣いた次の日は疲れきってるから泣きたくないのに。
結局泣き疲れた自分は夕飯も食べずに(昼も食べてない。食べなくても大丈夫な体になってしまった。なんてエコな体だ)寝てしまった。
泣き寝入りというやつである。