斉藤君と幸人さん
□第十八話
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今日は幸人さんの誕生日だ。
それは分かっている。
分かってはいる。
ただ体が言うことを聞いてくれない。
関節は痛いし頭はぼーっとする。
忙しかったのに更に激しい気温の差が祟って風邪を引いた。
それも結構長引く面倒な風邪を。
おかげで随分前から誕生日のサプライズを計画していたのにダメになった。
それに1週間仕事を休むことになった。
今日で風邪を引いてから4日目だ。
「さ…斉藤、くん…」
「ああ…幸人さん…」
チラリと扉の隙間から幸人さんが顔を覗かせた。
不安げな表情でこちらを見ては入ってこようか迷っているようだった。
うつしては悪いから、とさっき入らないよう言ったばかりだからだ。
「…大丈夫、ですか…?」
オロオロとしながら泣きそうな顔。
心配、してくれてるのかな。
なら嬉しい。
はっきりしない思考のまま幸人さんの顔ばかり見つめてしまった。
風邪を引くと人恋しくなるのは本当らしい。
うつすのは嫌だが近くにいて欲しくてたまらない。
泣きたくなった。
「どうなんでしょうか…すいません、ごほ、体温計持ってきてもらえますか…?」
「は、はいっ」
パタパタと階段を降りる音。
転ばないかな、とか少し不安だったけど考えることすら辛かったから、僕はただひたすら幸人さんを待つことにした。