斉藤君と幸人さん

□第十九話
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幸人はよく不安に駆られることがあった。

大紀は自分に多くの愛を注いでくれる。

それなのに自分は何も出来ない、と。

その度に泣けてきてどうしようもないのだ。


「…斉藤君…」

「幸人さん?」

「…自分は、斉藤君に、何かしてあげれてますか…?」

「…どうしたんですか、また不安になっちゃいました?」

「自分は…ひっ…」


涙が伝ったのを感じたら、もうどうにも止めることができない。

幸人の小さく震えながらも自分を掴む手に、時折跳ねる肩に、大紀は締め付けられるような感覚を覚えた。


「幸人さん…」

「好きなのに…何も、出来ない…!!」


大紀が抱きしめると、幸人は離すものかとばかりに抱きついてくる。

少し高めの体温が全身に馴染むようにして広がる。

大紀も幸人もこの瞬間が好きだった。

生きていると、愛されていると全身で感じられるのだ。


「ひっ…う…」

「僕は、こうやって幸人さんが抱きしめてくれるこの時が好きです」

「抱きしめ、ひく、られてるのは…」

「僕も、抱きしめられてますよ。ほら、ちょっと歪な感じだけど」


背に回された手をそっと撫でられ、幸人はドキリとした。

そしてそのまま握り込まれ、頬を寄せられた。


「僕は、幸人さんがこうやって近くにいて、笑ってたり泣いてたり、怒ってたり喜んでたりしてればそれだけで嬉しいんです。そして、こうして僕に縋ってくれる度に僕は愛されてるって感じるんです」

「斉藤く…」

「だから、ね?そんなに悲しそうな顔で泣かないでください」


ハラハラと落ちる涙を大紀はそっと拭った。

少ししてやっと落ち着いてきた幸人は、ただ静かに大紀の胸に頬を寄せていた。

カーテンの隙間からのぞく月は、青白いまでに澄んだ色で、しかし暖かな光をしていた。
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