斉藤君と幸人さん
□第一話
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太陽光線で目が痛い。
いつぶりだ、おてんとさんにお目見えするのは。
いつもは夜中、しかもコンビニしか行かない。
ただ銀行に行かなくてはならないからこうして家を出た。
手持ちが尽きたからだ。
残念ながら近所に銀行がない。
コンビニATMはどうも苦手なので使わない。
「…………」
怖いこわいコワイ!!!
球と円柱で出来た物体が群をなしている。
怖いなんてもんじゃない。
足がすくんで動けない。
自分の危険察知本能が働きだした。
「あ…う…」
過呼吸。
昔からの悪い癖だ。
極度の人混みの中に行くと、どうも緊張してしまう。
ここ数年、外に出なくなってからは特に酷い。
「う…ぁ、は、は…」
足が震える。
がくがくする。
回りの人間は自分の異変に気付いて避けて通った。
「(やばい、死ぬ…!!)」
気付いたときには道に座り込み(というか倒れ込んだ感じに近い)、失禁していた。
痙攣が止まらない。
ほとんどが汚いものを見る目で通り過ぎる。
…他人なんて、所詮この程度…
「ゆっくり息、吸って…」
霞む目の前に影が出来る。
口元にはビニールの感触。
「大丈夫です、ゆっくり、そのまま呼吸をしてください」
促されるままに呼吸を続ける。
何分過ぎたのであろう。
痙攣は未だに収まらなかったが、だいぶ意識ははっきりしてきた。
「歩けますか?ここじゃあ危ないので、少し動きましょう、桐山幸人さん?」
優しい声だった。
昔の父親の声に似ている気がした。