斉藤君と幸人さん

□第三話
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学ランが着たかった。

生憎行ける高校がブレザーだった。


「…寒い」


夏も冬も同じような生地のシャツ。

ジャケットはあるけど学ラン程暖かくない。


「(ポケット小さい…)」


携帯を入れればそれで終わり。

そんなのポケットじゃない。


「桐山くん」

「…?」


名を呼ばれるのは何時ぶりだろう。


「何、してるの」

「…永田くん」


彼は自分と同じ種類だと思う。

けど時々空気が変わるから言い出せなかった。

だから、話せなかった。


「寒いって、思った、だけ…」

「教室に…入れば、いいのに…」

「…居辛い」


もうほとんど居場所がない状態だったから、自分は教室にいることが少なくなっていた。


「桐山くん」

「…幸人、で、いいよ…」


自分を名前で呼ぶように催促したのは何時ぶりだろう。

彼は、永田くんは、怪訝な顔をして自分を見ていた、そんな気がして顔があげられなかった。


「桐山く…」

「ひっ…」

「……幸人…?」

「う…ぁ?」

「幸人……」


彼が、一歩足を進めたのを感じた。

距離が詰められて、徐々に呼吸が荒くなる。


「ひゅ…ひゅ…」

「だ、大丈夫…?」


ゆっくりだけど…頭に手を乗せられるのを感
じて、肩を竦めてしまった。


「……幸人、」


切羽詰まった声で名前を呟かれて、抱き締められ、壁に押し付けられて、そのまま、キスされた。

嫌でも分かってしまう唇の感触に、嫌悪感はなかったものの怖かった。


「…!!…!?」

「はぁ…はぁ…幸人…幸人…」


同じ空気が取り巻いてるのに、同じ匂いがするのに、どうしてこんなに怖いのだろう。

彼はそのままゆっくり自分のベルトを外してきた。

冷気が隙間から入ってきて足が震える。

それどころじゃない。

今の自分の貞操の危機だ。


「永田、くん」

「そんな顔しないで…止まらない…」

「え…?ひっ、ちょ、やだっ…!!」


自分のズボンはあっさり下ろされて、下半身は白いブリーフのみ。

誰にも見られたくなかった。

高校生にもなって…白いブリーフ…


「み、みりゅ、な…」


あああ…噛んだ…


「…いい」

「へ…?」

「似合うよ、それ…可愛い…」


明らかに自分とは違う空気を感じた。

どちらかと言えば変態に近い、いや、変態だ。


「よくしてあげるから…」

「や、やだ、やだ、やだ…。なんで、永田くん…」

「今は明って…呼んで…」

「あ…あき、ら…?」

「…幸人」


切羽詰まったキスを数回。

自分はもう何が何だか分からなかった。

恐怖と焦りで息が詰まる。

苦しい、怖い、嫌だ…


「ひゅ…ひゅ…やだ…や、だ…」

「幸人…」

「や…」


意識が飛んだ。

呼吸困難と体温低下。

あの寒さの中ズボンを脱がされていたのだからしょうがない。

気付いたら病院だった。

永田くんは…いなかった。

その日から、自分は学校にも行かなくなった。

永田くんは理由も告げぬまま自主退学したと先生に聞いた。

高校最後の思い出が、それだった。
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