斉藤君と幸人さん
□第十四話 当日
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帰ってすぐに驚いた。
家の電気が消えていたものだから。
幸人さんが出掛けているとは思えない。
外に出ることが苦手な彼のことだから。
「た、ただいま…」
何故だか声を潜めてしまう。
幸人さん…いないのかな。
「幸人さーん?」
呼んでも返答なし。
どうしたんだろう。
「ゆき…」
リビングの電気をつけるとソファに寝転がって巨大テディを抱き締めたまま眠っている幸人さんがいた。
「あ…え、幸人さん?」
寝てる…
え、寝てる。
…ちょっと、拍子抜け。
「はは…寝てる、ね」
テディの下敷きになってるからかな、幸人さんがすごく小さく見える。
このまま寝かしておこうかとも思ったけど、気温は下がる一方だしインフルエンザも流行ってることだから起こすことにした。
「幸人さん、起きて」
「う、ん…?」
「インフルエンザになったら大変ですから」
「う……」
目をパシパシとさせながらゆっくり起き上がる。
見慣れた制服を着ている。
ああ、女子が着てたやつ…あれ?
「あー…斉藤くん、おかえり」
「ゆ、幸人さん…おかえりじゃないでしょ、ちょっとなんですかそのかっこう!!!!え、なんで幸人さんが僕の高校の制服着て…」
「上杉くんが貸してくれました…お手製らしい、れすよ…」
幸人さん特有の寝起き故の甘えで、にっこり笑いながら僕に手を伸ばす。
あー…可愛い、じゃない。
「誉か…幸人さん、脱いでください」
「…気に入りませんでした?」
あからさまにがっかり顔。
寝起きは表情が豊かだ…
「そうじゃないですけど…」
「…上杉くんから、これが、斉藤くんの、好きなものだって聞きました…」
「……間違っては、ないです」
女子の制服が好きなわけではない。
"幸人さんが着てるから"好きなだけ。
「それに…その、今日は斉藤くんの、誕生日だから…自分は、あの、上杉くんから斉藤くんへの、プレゼントだって…」
「…幸人さんが、プレゼント?」
だから全身リボンでぐるぐる巻き…。
「…幸人さん」
抱き締めてやれば素直に抱きつく。
もう目は覚めきっているに違いない。
きっと誕生日だから素直にしろと誉に言われたのだろう。
可愛いことをする。
「あの…さ、斉藤、くん…」
「幸人さんからのプレゼントは、何?」
「へ?」
「だから、幸人さんからの誕生日プレゼント」
短すぎず長すぎない、ちょうどいい長さのスカートが幸人さんが足を動かす度にヒラヒラと揺れる。
その度に太股を撫で回したいという、なんとも変態的な思考に陥ってしまった。
「あ…あ、あの、その、」
「うん?」
「自、分のプレゼントは、じ、自分、れす…」
「誉に言えって言われた?」
「え、あ、はい…」
「やっぱり」
「ああああ!!ちが、あの、」
「いいですよ」
素直に嬉しかったから。
だから抱き締めて頭を撫でてあげた。
…それにしても、
「…据え膳食わぬはなんとやら…」
「…は、はい?」
「いえ、なんでも」
「はあ…」
「幸人さん」
「はい」
「寝室…行きませんか?」
「…はい」