聖闘士星矢

□甘露
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聖域の破損箇所を修復し、山積みにされた書類の片付けが、一段落ついた時のことだった。
ハーデスの使者として、双子神の兄ヒュプノスが、聖域に降りてきたのだ。
泊まりだという。
何処に泊まることになったのかは、今に分かる。
双児宮の客室に彼はいた。
私は珈琲をだそうと、台所にたっていた。
すると、何かの視線が私に向けられた。
何故だか知らないが、それは教皇の間にいた時から、まとわりついていた。
今分かったのだが、どうやらヒュプノスのようだった。

「……どうかされましたか?」

とりあえず声をかけてみる、が返事はない。
もう一度声をかけようとしたが、今まで沈黙していたヒュプノスが口を開いた。

「お前はなかなか、鈍い男だな」

いきなりの発言についていけず、理解することが出来なかった。





気がつけば自分の上にのる神と、組み敷かれて身動きのとれない私がいた。
ヒュプノスは私の首筋に顔を埋め、所々に紅い華を散らせてゆく。
なぜ私はこのような状況で、逆らわないのか?
いや、その理由は知っている。
しかし、これは悟られてはならない思い。
ハーデスの力で甦って間もないころ、私はある相手に、抱いてはならない思いを抱いてしまった。
所詮は届くことも、告げることも出来ない関係なのに、だ。
神と人。
あまりにも違いすぎる。
それなのに、これはなんだ?
まるで愛しい者を見ているような、この優しさに満ちた瞳は?
この溶けるような愛撫は。
勘違いをしてしまいそうだ。
愛されていると。

――ヒュプノス――

名を呼べるなら、どれだけ幸せに浸れるだろう。





ことが終わり、私は身支度を整えていく。
背後ではそれを、眺めている神がいた。

「サガ」

静かな声が私を呼ぶ。
その声に服を掴もうとした手が止まり、微かに震える。
一時の情事の後の、虚無感と後悔とが内を掻き乱す。
唐突に柔らかな、それでいてしつこくない自分以外の髪がまとわりついた。
驚きで息が詰まり、身体が固まる。
背中から抱き込まれた。
そして、予期せぬ言葉が私の耳に入り込んだ。

「サガよ。愛している。私のものになれ」

「っ…!」

それは一種の薬のように質が悪く、甘美な響きだった。
だから答えた。
はい、と。
ヒュプノスは満足げに微笑み、私の唇を貪った。
カノンが居なくて幸いだったと、私はぼんやりと思うのだった。

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