MAGI

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先の煌帝国との会談の際
シンドリアと煌帝国の友好の証として
シンドリア側は煌帝国の皇子を留学という形で自国へと向かえる事となっていた

そして本日、煌帝国の皇子を乗せた船が
シンドリアへ着いたため
八人将と、王と姫はシンドリア唯一の港へと向かった

煌帝国は何艘もの船でシンドリアへとやってきている
全ての船が“煌”という旗を翻し
己の国の存在を誇示するようにして
シンドリアの港へと船を寄せている

そして幾人もの武官を連れ
船から降り立った皇子は
迎えのために待機していたシンドバッドの下へと向かい
深く礼をした

「煌帝国第四皇子、練白龍です」

「陛下から話は伺っている、歓迎するよ」

「義父の命でなくとも、貴殿にお会いしたいと思っていました」

「それは光栄だ、その話もゆっくり聞かせてもらおう」

互いに友好関係が気づけるように言葉を選びながら会話を行う
そんな最中
白龍の後ろに控えている赤髪の人物を見つけたアッバーサは
兄の袖を引っ張り言葉を紡ぐ

「兄様、後ろの方ってバルバッドでお会いした」

そこまでアッバーサが言葉を紡げば
次にその後ろで控えていたジャーファルが驚いたように口を挟んだ

「れ…練紅玉姫」

そしてジャーファルは
やはり、煌に滞在中に何か王が粗相でも…と酷くオロオロとした様子で
皇女の出方を見守っている

「先日はどうも…またお会いできてうれしいわ!」

けれど、ジャーファルのそんな心配をよそに
皇女はいたって穏やかに、そして微笑を浮かべながら
シンドバッドへの挨拶を述べた

「お久しぶりですね、バルバッド以来だ、そういえば貴女とは、煌帝国ではお会いする機会が一度もありませんでしたね…」

その言葉に、シンドバッドも微笑みながら言葉を返す
しかし、その言葉が皇女の地雷となったようで
ハハハハと笑うシンドバッドを他所に
皇女の瞳は段々と据わっていく

そして

皇女は袖に隠し持っていた刀を抜き
それをシンドバッドへと振りかざした
刀が擦れたのかシンドバッドの髪がハラリヒラリと宙に舞い
呆気にとられているシンドバッドと
状況がよく把握できていないアッバーサは
唖然とした様子で紅玉の言葉を待った

「私と決闘しなさいシンドバッド!!乙女の身をはずかしめた蛮行、万死に値する!!」

その言葉に、兄の酒癖の悪さをしっているアッバーサは
きっと煌帝国滞在中に何かあったに違いないと確信し

隣にいる兄を疑いの目で見上げる

「何したの…兄様?」

「なっ…何もしてないよ」

「でも、だって、皇女様すっごく怒ってるじゃない!!」

「誤解だ、アッバーサ」

シンドリアの国主兄妹が
やったやってないだの押し問答を繰り広げている最中
同じく困惑気味のジャーファルは皇女へと何があったのか問いただそうとしたが
当の皇女は何があったか語れない様子で
顔をまっかにして侍女へと泣きついてしまった

その様子に誰もが思う




“王よ…何をした?”





そして皇女が自ら語ろうとしない
否、できないため
代わりとして皇女の側近である夏黄文が真相を語りだした


皇女の話を要約すると
シンドバッド王の煌帝国ご滞在最後の夜、別れの酒宴が催され
その夜が明け
朝寝所にて姫がふと隣を見ると
全裸のシンドバッド王が居た

というわけである

「これで何も無かったというのなら、ぜひご説明いただきたく、シンドバッド王よ!!」

その説明に誰もが
シンドバッドを疑いの目で見つめる
もちろん隣にいるアッバーサも同じような目で兄をみつめており
更には数歩後ずさり
兄との距離を置いたのだった

「アッバーサそんな目でみるな、俺はやってない!!断じてなにも!!」

「不潔よ、近寄らないで」

「そんな事を言うな、兄さん悲しくなる」

「身内の不祥事で私は悲しいよりも恥ずかしいわ!!」

そんな兄妹のやりとりを見ていたジャーファルが
アッバーサを呼び寄せると
アッバーサはジャーファルの元へと走っていき
その胸に飛びつき兄をジトーっとした目で睨みつけるのであった

「アッバーサは…兄さんよりもジャーファルがいいのか…そうなのか…」

「いいから黙って、ちゃんと皇女様に謝って、そうじゃないと私、情けなくって情けなくって涙が出そうよ」

そしてジャーファルの官服に顔を埋めるアッバーサを
八人将の皆がなだめていく

ああ姫様お可哀想に
ああ姫様泣かないで
ああ姫様私たちがいますから
ああ姫様あんな兄の事は忘れましょう
ああ姫様同情します
ああ姫様酒飲んで忘れましょう

「お前達!!どいつもこいつもアッバーサの味方ばかりしやがって、俺の味方はいないのか!!」

そうシンドバッドが悔しそうに呟けば
その外交へと同行していた
シャルルカンとスパルトスが助け舟を出した

「そういえば、あの夜王様は全然酔ってなかったぜ」

「ああ、確かな足取りで部屋に戻るのを私たちがしかと見届けた」

「そうだ、俺はそのまま眠ったのだ、やはり姫君とは何もなかった」

その助け舟にシンドバッドも便乗し
わが身の潔白を晴らそうと言葉を紡ぐ
しかし、その言葉に
紅玉は、何故起きたら全裸だったのか、寝ている間に自然に服を脱ぎ捨てるのかと問うと
シンドバッドはとても良い笑顔で

「うむ、それはよくある事だ」

と返答を述べた

「ふざけないで、どこまでもしらを切るつもりなら、今度は私の言い分を聞いていただこうかしら」

しかし、シンドバッドの言葉に
更に怒りを爆発させた紅玉は
自らの主観でその日の出来事を語りはじめる

最後のよる、酒宴の場の片隅に紅玉は居た
しかし、シンドバッドに声をかけることができず
紅玉は早々と自室へと戻っていた
その途中
暗がりの中、何者かに襲われ、意識を失い
気がついたら、シンドバッドの部屋で朝を迎えており
あわてて飛び出したところを女官に保護されたという訳である

「それはつまり…」

紅玉の説明を聞き終えたジャーファルが
問うと
夏黄文が言葉を紡ぎだした

「つまり、こういうことでありましょう…シンドバッド王は、自分に気のある紅玉姫に宴の咳でひそかに目を付け、証拠隠滅のため姫君を昏倒させた上で行為に及んだのでありましょう!」

その言葉に八人将から“最低だ”という声が上がる

「最低よ、不潔だわ、皇女様って私と同じか少し年下くらいなのに…兄様ってロリコンなの…最低、ほんっとうに最低、不潔よ不潔」

そしてアッバーサからも悲痛の声があがり
ジャーファルはそんなアッバーサをなだめるように良し良しと頭を撫でた
そしてシンドバッドを見つめながら

「最低ですね」

と呟けば

「お前ら信じろよ、自分の王を、俺が外交の最中に酒で失態をおかすなどと、お前達は本当に思うのか?」

とシンドバッドは言葉を返した

しかし、信じられるわけが無い
なんといっても、シンドバッドは酒癖が悪すぎるのだ
何時ぞやは、旅先の村で酒宴の夜が明ければ現地妻が多発していたり
最新例を挙げれば、バルバッドでの金属器紛失事件が挙げられる

「信じられませんよね」
「毎度のことっすからね」
「酔った王に手をだされかけたという女性からの苦情が絶えません」
「そうそう、こないだなんてすごいおばあちゃんに手 出しそうだったよね」
「実は私も一度手をだされかけたことが」
「な…んだとぉ」

八人将たちが次々と言葉を紡ぐ
そして最後に
アッバーサが兄へと振り返り
座った目で言葉を紡いだ

「ほんっとうに不潔ですね…金輪際、触らないで下さい」

その言葉が一番ショックだったようで
シンドバッドは頭を抱えながら
許してくれアッバーサ…と呟いている

「下手な弁解は終わりでありますか?シンドバッド王、やはり貴方は姫君の身に手をだしたのだ…そうなれば、責任をとるには、姫君と結婚するほかないと思いますが!!」

最悪の展開にシンドリアの誰もが息を呑んだ
しかし、当座の友好関係か煌帝国からの総攻撃かを考えたら
選択の余地は無い…とジャーファルは悔しそうに呟いた
それに八人将やアッバーサも同意する

「シンドバッド王!!ご決断を」

そう皆で王へと迫れば
いよいよ堪忍袋の尾が切れたらしいシンドバッドは

「あーもう我慢ならん、ヤムライハお前の力で俺の無実を証明してくれ!!」

そしてヤムライハの水魔法で
シンドバッド王の身の潔白を証明する事となったのだった





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