MAGI

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「本当にやってないんですね」

「やってない」

そんなやりとりを繰り返しながら
ヤムライハは仕方ないといった表情で
王の潔白を証明するための魔法の準備を始めた

そしてシンドバッドと紅玉から
一滴づつ血液を採取し
それを両の手に集めた水の集まりの中へと落とす

「シャラールラケーサ(真実の水人形劇)」

ヤムライハの魔法にて
水の塊が、それぞれシンドバッドと紅玉姫の形を成していく
そして即席で造られた煌帝国の城の内部模型の中を
その水人形は動き回る

それは事件の夜の再現であった

「この魔法に嘘はつけないわよ…」

そのヤムライハの言葉に
八人将とアッバーサはハラハラした表情でその水人形を見守る
今のところ変わった動きは無い
シンドバッドは自室で寝ているようであり
紅玉姫に至っては城の廊下を歩いていた

しかし、廊下をあるいていたはずの紅玉姫が突如として倒れ
何者かに運ばれるようにシンドバッドの寝室へとつれてこられた

そしてシンドバッドの隣へと横たえられる

ただ二人して眠っているだけ
あやしい動きは何も無い

「あれ?じゃあおじさんは何もしてなかったんだね?」

「これから起きてするかもしれないじゃない!」

「そうだぜ、姫サマを誰かに頼んで運んで来させたのかも知れねーじゃねーか」

アラジンの言葉に
シンドバッドの臣下であるヤムライハとシャルルカンが王を裏切るような発言をする
それに続くようにジャーファルとマスルールがアラジンとモルジアナの目を塞いだ

「ここからは子供はみてはいけません!」

「でも私達には見届ける義務があるな…」

「分かってるんだけど、身内の見るって気分がわるい」

その人形劇を見つめながら
スパルトスとアッバーサは気分の悪さに耐え切れず
口元を押さえている

そして皆が見守り続け時間が経過した
しかし、二人して眠っている以外何も起こらない

「ほら、見ろ!!俺は何もやってねーだろ!!」

これで王の身の潔白は証明されたわけである
王に対し一斉に頭を下げる八人将たち
アッバーサも兄に対しゴメンね…と謝れば
兄は真剣な顔でアッバーサの肩に手を置き言葉を紡ぐ

「兄さんは不潔か?」

その余りにも鬼気迫った表情に
アッバーサはフルフルと首を横に振るしかなかった

そしてシンドバッドは次に
紅玉へと向き直り言葉を紡ぐ

「ごらんの通り、私達には何もなかった。貴女の身も名誉も何一つ傷ついてはいないのです」

「そ、そうよね…だって自分でもおかしいと思っていたの…あの朝、私は服も髪もまったく乱れていなかったし、でもワケがわからなくて恐くて、騒いでしまって…本当にごめんなさい」

そうシンドバッドへと言葉を紡いだ
紅玉はしくしくと涙している
そんな紅玉を見つめながら
シャルルカンがポツリと呟いた

「しかしよ、ってことは姫サマを気絶させて、王サマの横に寝かせた犯人は別にいるってことだろ?」

その一言にシンドリア勢にざわめきが起きる
そして誰だ何故だと犯人の推測を立てている最中

「スミマセン!!全部、夏黄文さんがやりました」

と夏黄文の部下である官吏たちがあっさりとばらしたのだった

「ええバカかお前ら、出世したくないのか?」

「だって、なんかもう姫君が可哀想だし、俺達夏黄文さんのじゃなくて姫の部下だし」

と官吏たちはそろいも揃って姫の擁護へと回る

「シンドバッド王を陥れた反逆者を取り押さえろ!!」

そしてシンドリアとしても
そんな輩を放っておく事にはいかず
武官長が捕獲の命を叫べば

「ちっ、ここで捕まるわけにはいかん!!」

何としてでも逃げようと
夏黄文は部下の剣を奪いシンドリア側へと刃を向けた

「あいつ抵抗する気か?」

槍を構える
シンドリアの武官達
一触即発の空気が漂う中
その光景を見守っていたアッバーサが一歩踏み出し
その場へと歩いていく

「姫様、危険ですお下がり下さい」

そう告げる武官を制止し
アッバーサは夏黄文の前へと立ちはだかる

そして右手を掲げ
夏黄文が手にした剣へと向けると
その剣は何かに操られるかのように夏黄文の手を離れ
その頭上へと静止する
そして再びアッバーサが指を動かし
夏黄文の首元を指差すと
剣は夏黄文の首元すれすれで静止する
今にも斬首されそうな状況に
煌帝国の誰もが息を呑んだ

「このままいけば公開斬首になりますが、どうします?」

そうアッバーサが言葉を紡げば
夏黄文は恐怖に瞳を揺らしながらヒュっと息を飲む
どうやら突然の形勢逆転に抵抗の方法も思いつかないらしい

「貴方は我が王に敵意ある人物だと見なします、残念ですがこのまま」

そこまでアッバーサが言葉を紡いだときだった
夏黄文の隣にやってきた煌帝国の皇子により
アッバーサが魔法で操っていた剣は手刀で打ち落とされた
そして皇子はアッバーサを見据え言葉を紡ぐ

「シンドリアの姫よ、どうぞわが国の非礼をお許し下さい」

「謝るべき相手は私ではありません」

「承知しております」

そして皇子はシンドバッドの前へと跪き言葉を紡いだ

「今度の騒動、わが国の者の不義です、同行者の非礼、煌帝国を代表してお詫び申し上げる。ですが今回の留学の重大な目的はまったく別にあるゆえに…どうか滞在をお許し下さい」

そう皇子が切に願えば
シンドバッド王は快くそれを許可したのだった








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其の日の夕餉での事だった

「アッバーサ、兄さんは不潔か?」

先の騒動をまだ引きずっているらしく
兄は夕餉中に何度も妹へ同じ質問をぶつけていた

「今は不潔じゃないって何度もいってるでしょ」

「だって、兄さん本当に今日は傷ついてだな」

「あーもー黙ってください、私は静かに食事がしたいんです、っていかもういらない、部屋に帰らせて頂きます」

そしてアッバーサが席から立ち上がれば
シンドバッドは咄嗟にアッバーサの腕を掴み
その場へ残るように告げる

「まだ食べ始めたばかりじゃないか」

「だから、静かに食事できないならいらないっていってるのよ!」

「そんなんでは大きくならんぞ、いやいや、もう十分だな」

何処が?と聞くまでもなく
自身の胸元へと注がれる兄の視線に
アッバーサは重力魔法でナイフを浮かし
兄目掛けて飛ばした

カッカッカッ

と軽い音を立て
ナイフは兄の髪を掠めながら背後の壁へと突き刺さった
それに驚きシンドバッドは掴んでいたアッバーサの手を放す

「変態、セクハラ、おじさん!!」

そして今度はフォークを浮かせれば
兄の服目掛けて放ち
その服をフォークにて背後の椅子へと縫いつけた

「アッバーサ、少しずれていれば兄さんリアル磔になっている所なんだが」

「お灸です」

「その言い方、ジャーファルにそっくりで恐いんだが」

「ジャーファルのお灸のほうが恐いわよ」

「うん、そうだね、わかってる」

そんな二人のやり取りを
女官や料理人がハラハラしつつ見守っていたが
何ゆえ王と王女の兄妹喧嘩のため
誰も止めに入ることができない

そしてようやく危機感を感じた女官の一人が
この場を唯一鎮められるであろうジャーファルを呼びに行き

ようやくその場は収められたのだった





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