MAGI

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「そろそろアリババ君達に迷宮攻略に出て貰おうかと思うんだが、お前はどう思う?」

夕餉の席で突如問いかけてきた兄に対し
アッバーサは予想していなかった質問に
少し考えてから言葉を紡いだ

「迷宮って、ザガン?」

「ああ、そうだ…他国の者に攻略されるくらいならアリババ君にと思ってな」

「それは懸命な判断だと思います、でも…」

そこまで言葉を紡いでから
アッバーサはパンを千切りながら毎日の修行風景を思い出す

確かにアラジン、アリババ、モルジアナ
それぞれが其々の師匠につき修行に励んでいる
でも、どうも全員強くなっているようには思えないのだ
否、アッバーサの評価が厳しいのかもしれないが
アラジンは単純な魔法しか使えないし
アリババは武器化魔装しかできない
モルジアナは元から強いのでよくわからないが

本当に、あの子達を迷宮に送って大丈夫なのか心配になる

「あの子達が成長していないとでも言いたげだな」

「うん…そうかもしれません、でも私の評価が厳しいのかも」

兄に全て見透かされていたため
アッバーサは苦笑いを浮かべながら千切ったパンへとジャムを塗った

「まあ、お前は優秀な魔道士だからアラジンを見ているともどかしく感じるのも分からなくもないが」

「うん、マギってもっと強い魔法が何でも使えるのかと思ってたんだけど…」

そうでもなかったのよね…と
アッバーサは呟きながらパンを口へと運ぶ

ああ今年の新作のパパゴレッヤジャムは美味だと思いながら
アッバーサは次にアリババの魔装について考えていた

「それに、アリババ君も一向に魔装ができないし、何故だと思う?」

「いや、それは才能とセンスの問題だろ」

「じゃあ、何でもすぐにできた兄様は物凄く才能に恵まれていたって事ね」

とアッバーサは続ければ
シンドバッドはものすごく良い笑顔で

「うむ、そういう事だ」

と続けた
その光景に、アッバーサははいはいと言いながら
運ばれてきたスープを口へと運ぶ

「そんなあの子達を迷宮へ送り出していいと思うか?」

「それは王である兄様の判断に任せます、でも敢えて言うなら…」

迷宮攻略が鍵となって
何か新しい力が芽生えるかもしれない
それはアラジンでは、新しい魔法が使えるようになったりだとか
アリババで言えば、魔装ができるようになったりだとか
モルジアナでいえば眷属として認められたりだとか…
そんなわずかな可能性を期待し
アッバーサは言葉を紡いだ

「何かが変わるかもしれない…かな」

「そうか、お前がそういうなら俺は自信をもって彼らを送り出そうと思う」

「でも、ジャーファルにも聞いてみて下さい、あの子達の事を人一倍気に掛けてるから」

「ああ、この後にでも聞いておくよ」

そして次に女官が運んできた
魚料理へとナイフを差し込む
今日はバルバッドから輸入したエウメラ鯛の塩焼きらしい
シンドバッド王の大好物だ

「それと、お前は白龍君と話した事はあるか?」

「シンドリアにこられた初日の晩餐会で少しだけ」

「そうか」

そこまで話し、何かいいたげなシンドバッドの姿に
アッバーサは小首をかしげる

「白龍皇子がどうかしたの?兄様」

「どうやら彼は強い野望をもっているようでな、驚いたという話だよ」

「強い野望?それはシンドリアを乗っ取るとか、いかにも煌っていう野望ですか?」

口へ運ぼうとしていたエウメラ鯛の身がポロリと落ちる
それほど動揺した様子でアッバーサは兄を見上げた

「いやいや、そんな物騒な事じゃないんだが、彼は自国に対してあまり良い印象を抱いていないようでな」

「自国って煌のこと?」

「ああ、そうらしい」

「自分が生まれ育った国なのに?」

「ああ、そうだな」

「何故です?」

「俺にはそこまでは分からん、ただ彼は心底自国が嫌いでシンドリアへ留学してきたって事だ」

その答えは強ち間違ってはいないが
白龍がシンドバッドに伝えたのは
“煌帝国を滅ぼしたい”
という強い思いだった
そんな思いを抱くようになった経緯は分かりかねるが
それでも、彼は要注意して観察しておくべき人物である

「そんな話をここの王である兄様にしたんですか?」

「何でも包み隠さず話したかったそうだ」

「それで兄様は助言を与えたの?」

「ああ、暫くアリババ君達と行動してみんなさいと言ったよ」

「何故です?」

「彼…アリババ君は言うなれば“陽”だ、そして白龍君は“陰”…互いが互いの手本となるだろう、そう思ってな」

「兄様がそう思うならきっと間違ってはいないと思うわ」

そして、アッバーサは先ほど口へと運び損ねた
エウメラ鯛をおいしそうに頬張るのだった








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その翌日の事だった
朝からシンドバッドの執務室に呼ばれたアッバーサが部屋で待機していると
同じく召集をかけられたであろう、ジャーファルとヤムライハ、マスルール、シャルルカンもやってきた
その面々をみたアッバーサは
とうとう、兄はアリババ達を迷宮へ送る決断を下したのだろうと察した

そして兄は八人将たちへアリババ達を迷宮へと送る事を伝え
その後、部屋へと集められたアリババ達へとシンドバッドは言葉を紡ぐ

「君達に“迷宮攻略”に行ってもらう!」

そう告げれば
アリババ達は一斉に驚きで目を見開いた

「君達も力をつけたし…ずっと攻略する人手を探していたんだ、ぜひ、行ってきてほしい」

シンドバッドの後押しに
アリババ達はやる気を見せる

「わかりました、それなら俺達がやってみます」

「はっきりいって命がけだが、引き受けてくれるか?」

「はい、この三人では“第7迷宮”も攻略してるし…それに前より力もつけた、きっと大丈夫です」

そうアリババは自信満々に言葉を紡いだ
その様子にシンドバッドは安堵の表情を浮かべる
そして3人を送り出そうとしたとき
その後ろで控えていた白龍が一歩踏み出しシンドバッドをまっすぐに見据え口を開いた

「あの、俺もどうか同行させてください」

しかし、シンドリアは白龍を煌帝国から預かっている身
こんな命がけの危険には晒せないと
シンドバッドは言う
しかし、白龍もひけない理由があるようで
遺書を残してでも迷宮へ挑みたいという強い思いをシンドバッドへと伝えれば
シンドバッドは少し固い表情をしつつ白龍の同行を認めたのだった

そして4人が去ったあとの執務室で
ジャーファルがシンドバッドへと言葉を紡ぐ

「良いのですか?煌帝国の皇子に“迷宮攻略”へいかせても」

「構わんさ…彼は力を欲している、それに攻略者が彼と決まったわけではないさ」

それはアリババかもしれないし
眷属器の発動していないモルジアナかもしれない

「それに、主を選ぶのは“ジン”なのだ、すべて“ザガン”に任せよう」







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